家族や近しい者の命とは
俺たちの連係攻撃の前にブルードラゴンは砕け散る。
「あと一匹!」
最後に残ったウォーテールは、砕け散ったドラゴンの破片を見つめていた。
「おのれ……おのれぇ!!」
ウォーテールが鎌首をもたげて俺たちを見る。
「我が領土を無断で侵入するだけでは飽き足らず、我が最愛の妻と息子をかようにして手にかけるとは……おのれら、許すまじっ!!」
ウォーテールが吠えた。
その響きには怒りと悲しみが含まれている。俺にはそう思えた。
「家族、だったか……」
俺のつぶやきにウォーテールが反応して身体を一瞬震わせる。
「家族? 家族だと!」
「なんだ聞こえたのか。聴覚も鋭いな、ドラゴンというものは」
「そうだ! 家族だ! 我が一族としてこれから成体になるところであったに……」
ウォーテールは怒りに身体を震わせ、目からは血の涙が流れていた。
「ドラゴンが……泣いている」
ルシルは冷静に状況を口にした。
滞空しながらこちらを見ているのは、俺たちとこうして対話をするためか。言葉も交わさず殺し合っている時とは状況が違う。
「可哀想な事をした、と思っているのかルシル?」
「うーん、私は家族ってよく解らないけど……まったく知らない奴が死ぬより、レイラやアリアが死んだ方が悲しいっていう気持ちはあるかも……」
ルシルは真面目な顔で考え込む。
ルシルの実の妹であるレイラや、俺の妹でルシルの魂が長いこと入っていたアリアに対しては、少しは近しい者として認識しているのだろうか。
それはルシルにとっても成長と言えるかもしれない。
「そうか。家族の大切さというものを、だんだんと解ってきているのかもな」
「どうだろうねぇ」
ルシルは照れながら肩をすくめて返事する。
「おのれ、我が一族を討っておきながら悠長に話をしているとは……」
ウォーテールは俺たちの話を聞いて、更に怒りを強めているようだ。
「おい、ウォーテールとかいうドラゴンよ」
「なっ、人間の分際で我が名を口にするとは! 不遜もはなはだしいぞ!」
「いちいち変な所で突っかかるなよ。そんな事よりお前だって家族を討たれれば悲しいんだろう?」
「当然だ! なにを当たり前なことを!」
だんだんと悲しみよりも怒りの度合いが強くなってきている。
「俺たちにも家族がいる。お前が殺した連中にも、親や子供がいたかもしれない。結婚相手も恋人もいたかもしれない」
「だからどうした」
「こうやって対話ができるのなら、話し合いで済ませる事ができたのではないか?」
「うむ?」
急にウォーテールはきょとんとした表情になった。
「おのれ、なにを口にしておるのだ?」
「だからお前が殺した奴も家族がいれば、残された者たちは今のお前みたいに家族を失った悲しみを……」
俺が話している途中でウォーテールが割り込んでくる。
「阿呆かおのれは? 我が一族を失えば、それは世界の損失である。だが、たかが人間ごときの命がどれだけなくなろうと、それはちりあくたに過ぎん」
「おい……」
「おのれら下等な生物は家族や組織などを意識する必要はない。我ら高貴なるドラゴンなればこそ、命の重要性が問われるというもの」
このドラゴンは心の底からそう思っているんだろう。
「か、家族というものは……なぁ……」
「人間よ、おのれらゴミが家族を語るな。ましてや命についてなど、我らドラゴンと同列に考える事すら不敬であるぞ」
「うーむ、こいつぁだめだ」
きっと今の俺はがっかりした顔になっている。
「会話ができれば関係性が生まれると思っていたが、ここまで話が通じないとは」
「言葉を交わすだけでもありがたい事なのに、そう思えない奴が偉そうな事を言うな」
「はぁ……」
俺は大きなため息を吐き出す。
「いいだろう、高貴とか偉いとか、そんな事なら今から俺が力で証明してやろう」
ウィブの首にまたがったまま、俺は超覚醒剣グラディエイトを抜き放った。