相対属性と近似属性
俺の投げた炎が青空を切り裂く。雨のように降り注ぐ炎の塊が二匹のドラゴンに次々と命中する。
「ゼロ、駄目だよ! 全然効いていない!!」
「弾かれていく……」
当たりはするが全てブルードラゴンの硬く水気を帯びた鱗で跳ね返されていく。
「さっきのドラゴンと違うのか……。火が効かないのなら、Rランクスキル発動、雷光の槍! 突き刺され電撃っ!!」
俺の放つ電撃がドラゴンの一匹を貫いた。
「ゴギャァァァァ!!」
ドラゴンは全身をしびれさせて一瞬動きを止める。
「これは効いている!?」
「さっきの奴も電撃で鱗が剥がれたからな。これで行けるか!?」
俺は動きの止まった一匹を集中的に狙って電撃を放ち続けた。
「ギャァァァ!!」
何本もの電撃の槍に貫かれたドラゴンが空中でもがきながら大きな口を開ける。
「ウィブ、来るぞドラゴンブレスだ!」
「承知!!」
大きな口の奥から水の塊が見えた。
圧縮された水が一気に口から噴き出す。
「えっ!?」
ドラゴンブレスは水流だけではなく、その周りに電光をまとっていた。
大空にまき散らされたドラゴンブレスは空中で爆発し、雷雲を造る。
「ゼロ! 電撃は相手に使われちゃうよ!」
ピシャーン! ゴロゴロゴロゴロ……。
稲光が瞬き、同時に雷の轟音が響き渡った。
「やっちまったなあ。俺の雷撃を雷雲に造り替えるなんて」
「火も駄目、雷も使われちゃう……。どうしようゼロ……」
「どうしようったってなあ……」
飛んでいる二匹のドラゴンはさっき俺が滅ぼした奴より大きくていかつい。全身の棘も無数に生えていて、その一つ一つが刺さると痛そうな物だ。
「あのブルードラゴンたち、成体なのかな」
「え? あ!」
今まで戦いでそこまで気を配っていられなかったのだろうが、ルシルも気が付いたか。目をこらしてブルードラゴンを分析する。
「ゼロ、さっきゼロが電撃で攻撃した奴、あいつがウォーテールだよ」
「ほう、どうして判った」
「あの顔の傷、右目の下にある刀傷は、天馬騎士が戦いで付けた傷。私見ていたから」
「前回遭遇した時のあの戦いか」
「うん」
自殺行為とも取れる天馬騎士たちの決死の戦い。それが今の俺たちに情報を与えてくれていた。
「そうすると、もう一匹は別のドラゴン」
「そうね、ウォーテールとは別個体……」
ウォーテールではないもう一匹のドラゴンが俺たちのそばをかすめていく。
「うわっ、とと、危なっ」
「安心するのだのう勇者よ。儂はそこまで老いぼれてはおらんからのう」
ウィブは余裕でドラゴンをかわしてすり抜けて行った。
「すまん、ウォーテールばかり気にしてしまっていた」
「構わんのう」
「なあウィブ」
「うむ?」
「今の、もう一度できるか?」
俺はウィブの首をさすりながら耳打ちする。
「ふうむ。まあ、やってみるかのう」
「頼む」
俺は鞍とつながっているベルトを外し、ウィブの首にまたがった。
「ゼロ! 危ないよ!」
「大丈夫だ、こっちの方がやりやすいからな」
「でも……」
俺はウィブの長い首にまたがり、脚の力だけで身体を支える。
「鐙があればやりやすかったかなあ」
「儂はどんどん馬みたいになっていくのう」
「あ、なんかすまん」
「いや構わんがのう」
俺たちが悠長に話している時、ブルードラゴンたちは体勢を立て直して俺たちに狙いを定めてきた。
「おしゃべりしていないで、もう!」
「すまんすまん。さてと」
俺はウィブに脚で合図する。
俺たちに向かってきたブルードラゴンの内、ウォーテールではないもう一匹が突進してきた。
「行くぞ」
「おう」
掛け声は静かに、そして鋭く。
ウィブは身体を回転させながらブルードラゴンの脇を通り抜ける。
すれ違った時、俺はウィブの首から立ち上がり、腕を伸ばす。
「Nランクスキル発動、氷結の指。凍れ」
俺の指がブルードラゴンの脇腹に触れる。
一瞬で放たれる冷気。Nランクとはいえ俺が魔力を大量に注入した攻撃だ。
「ギャ……」
ブルードラゴンの身体に薄い氷の膜ができる。
「ルシル!」
「うん! Rランクスキル氷塊の槍!」
ルシルの放つ尖った氷がブルードラゴンに突き刺さった。
「ギ……」
氷が刺さった場所から身体全体に入る亀裂。ブルードラゴンは叫び声すら上げられない。
「もう一発!」
俺がとどめに氷の槍をブルードラゴンに突き刺す。
「ガ……」
空中で巨大な氷の爆発が起き、ブルードラゴンの身体が木っ端微塵に砕け散った。