雲隠れ
雲を隠れみのにどうにかブルードラゴンの攻撃をかわす。
だがドラゴンブレスが雲を突き抜けると、その周辺の水分はドラゴンに吸収されてしまう。
「もう雲が消えかかっているよゼロ~」
「情けない声を出すなよ。もう少し、なにかが判りそうな気がするんだ……」
俺はウィブの背中で考えを巡らせる。
俺たちの行く先々にドラゴンが現れて攻撃を仕掛けてくるのだ。
「いや、いっそ逃げないというのも……」
「えっ!? 逃げなかったらやられちゃうよ!?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないぞ」
俺は一つの答えにたどり着く。
その答え合わせをするためには、逃げてばかりもいられない。
「どうするの!?」
「ウィブ、雲を抜けたら急上昇だ!」
俺はワイバーンの首を軽く叩く。
「了解した! つかまっているんだのう!!」
「頼むぞ!!」
ベルトで支えているとはいえ、急上昇は俺たちにかかる負荷も高い。
上昇している間、身体がとても重たく感じる。
「ぐっ……」
「苦しい……」
吸い込む空気も薄くなっているように思えた。
髪が後方へとなびく。それどころか全身が後ろへ持っていかれそうだ。
「雲を抜けるからのう!」
「よしっ!」
分厚い雲の層を抜けると、薄く広がる青い空が見えた。
「ゼロ! ドラゴンが追ってくるよ!」
俺たちの後を追うようにブルードラゴンが雲から突き抜けてくる。
ドラゴンが通ることで雲がブワッと広がって大きな穴を作っていく。
「このまま昇っていけっ! 俺は後ろに攻撃をかけるっ!! Rランクスキル発動、雷光の槍! 貫けっ、電撃の槍よっ!」
俺は右手で鞍をつかみ、左手を後方に伸ばして電撃を発生させる。
高速で移動するドラゴンだとすれば、急上昇中だとはいえこれくらいかわせるはず。
「当たるか……?」
俺の狙った所へ電撃が弾け、避けられなかったドラゴンが顔に大きな傷を作る。
「ゴグギャァァァァ!!」
くぐもった悲鳴が晴れた空の中を響き渡った。
「だが、それだけじゃあないのだろう?」
俺は今撃ったドラゴンとは関係ない左右に浮かぶ雲へ電撃を放つ。
「なんでそっちに……えっ!?」
「ガビャァァァァ!!」
いくつか放った電撃の一つが雲の中で弾けて悲鳴が上がる。
「あっちの雲の中にもいるって事!?」
「ああ、どうやらそのようだな」
その悲鳴を上げた雲が吹き飛び、肩口を痛めたドラゴンが現れた。
「二匹いたって事だ」
「それが私たちを挟み込んで攻撃していたのね!?」
「ああ。別におかしいことはない。俺たちの前に先回りしたのではなく、一匹が身を隠しもう一匹が姿を見せる。雲を隠れる道具に使ったのは俺たちだけじゃなかった訳だよ」
「考えてみれば簡単な事ね」
普通では考えられない物でも、ひもといてみればこんなものだ。
俺たちは急上昇したことで二匹のドラゴンを置き去りにできた。おってこざるを得ないドラゴンたちとすれば、身を隠しながら行動するにも限界がある。
「隠れているのはどうやら二匹だけのようだな」
俺は近くにある雲を電撃で散らしまくった。そのせいでこの辺りに雲は一切なくなってしまう。
「互いに身を隠す場所はなくなった訳だ。さあ、ここから仕切り直しと行こうじゃないか!」
雲一つない青空に浮かぶ二匹のドラゴン。そいつらに向かって俺は炎の塊をいくつも投げつけた。