遺伝子の切断と
俺たちよりも更に高い所からドラゴンが現れた。
「まさかっ!?」
俺が危惧した通り。一回り大きいブルードラゴンが俺たちの視界をさえぎる。
「グガガガガガ……おのれぇ!!」
ブルードラゴンはうなり声を上げながら俺たちに襲いかかってきた。
「危ないっ!」
俺の叫び声と時を同じくしてウィブが急旋回を始める。
「このおおおぉぉぉぉ!!」
ブルードラゴンはウィブのすぐ脇をすり抜け、急降下していく。間一髪でこれを避けたウィブは上昇して雲の中に逃れた。
「ウィブ! 奴は!?」
「高度を下げているからのう、儂らを追うとしても時間が稼げると思うのう」
「そうか! このまま駆け上がってくれ!」
「承知!!」
俺はウィブの予想に従い、上昇を続けるように指示をする。少しでも時を稼がないと。
急な襲撃で俺たちは混乱している。少しでも体勢を立て直さなければ。
「雲を抜けるのう!!」
「そのまま突っ切れ!」
「おう!!」
俺たちは雲を抜けて青空の中に飛び出す。
「なっ!?」
どれだけ速いというのだ。俺たちの目の前には巨大なブルードラゴンの姿があった。
「ウィブ!」
「おうっ!」
「頭部の射線から逃れろっ! 横に旋回しろっ!」
「しっかりつかまっているんだのう!!」
ウィブは急旋回して右に進路を変える。
俺たちがいた場所にはブルードラゴンのブレスが襲いかかっていた。
「ゼロ、あのまま直進していたら……」
「ああ。直撃はまぬかれなかっただろうな」
避けられたから言える。判断は正しかったと。
「それにしてもブルードラゴンめ、こんなに高速で移動できるとは!」
俺はウィブに指示を飛ばし、ブルードラゴンの正面を避けるように飛ばす。
「あの落下速度、それを上回る上昇速度……儂の理解を超えるのう」
ウィブも現実が認識を追い越している状態。頭が混乱しているのだ。
「冷静になろう。とにかくあいつのブレスから逃れなければ!!」
目の前に大きな雲の塊が見える。
「あの雲に突っ込んで急降下だ!」
「承知した!!」
ウィブは雲の中に突入した後に下降を始めた。俺たちの進行方向にブレスが飛んできても俺たちには当たらない。相手の予測を裏切る動きで翻弄するのだ。
「ブレスを吐いているようだがのう、儂らには当たらないのう」
ほっとしているのは、のんきな言葉を発するウィブ。
「雲を抜けるからのう、これで少しは息が継げるのう……」
雲を下に抜けた俺たちは、そこにいるはずのない物を見つける。
「なっ! なんで俺たちの進む先にいるんだ、こいつはっ!?」
想わず俺が叫んだ通り、俺たちの目の前には翼を広げたブルードラゴンが首をもたげて俺たちに照準を定めていた。
「ウィブ! 左だっ!!」
「おうっ!!」
射線から逃げなくてはならない。俺とウィブが水分を吸い取られたとしても、ルシルが治癒を施してくれる。
だがそのルシルがひからびてしまったら、俺たちが全員カサカサのミイラになってしまう。
「まったくなんて速さだ! 俺たちの行く先々に現れやがる!」
考える余裕は無い。俺たちは避けるだけで精一杯だ。
次々と放たれる直線的なドラゴンブレスに俺たちは翻弄されている。
「ここまで速いとは……ん?」
俺は違和感に気付いた。
「奴はなぜこんなにも速いのか。移動する手段は翼の羽ばたきなのか、それとも俺の超加速走駆スキルみたいに移動時間を超短縮したのか……」
考えながらも、俺はウィブに退避を指示する。
雲の中に入りながら、移動を繰り返す。
「奴の速さに……追いつけないのか……。だが俺たちが身を隠せる雲も奴の水分吸収のブレスでどんどん消え去っていっている……」
ブルードラゴンは周りの水分を吸収する。雲も例外では無いのだ。
奴がブレスを吐くたびに、雲が徐々に薄くなっていく。
「身を隠せる場所も……減っていくのか」
俺の不安と違和感はどんどんと盛り上がる。薄くなっていく白い雲の厚みとは反対に。