単独の逆鱗剥がし
俺は大きな池の視察を終えて町に戻ってくる。町から池までは片道一日かかる距離だ。
ブルードラゴンは今まで三日おきに襲ってきたらしい。それだけ回復するのに時間がかかるのだろう。
そう考えたら、行ったらすぐに戻ってこなければならなかった。
「あれだけの水があれば旅人の分も含めて足りるだろうな」
「ええ、だからこその運河だったのですが」
運河の下流を掘り進めていった所、ブルードラゴンのウォーテールが住む縄張りに踏み入ってしまった訳だ。
「あいつのドラゴンブレスは周りの水分を吸い取ってしまう。逆に言えば、水分を吸い取れなければ奴の攻撃は弱体化する」
「確かに。それは試していませんでした」
「まあ、試そうと思ってできる事ではないと思うがな。試す前にこちらがひからびて死んでしまう」
「そうですね……」
ララバイは落胆してうなだれてしまう。
「だが、水を吸われなければいい。吸われたとしてもそれを上回る回復をすればいい」
「そんな事ができるのですか!?」
「ルシルの治癒ならそれが可能だ。そして、ブルードラゴンに立ち向かうのは俺とルシルだけでいい」
「まっ、そんなお二人でなど……」
俺は後ろを振り返って、翼を休めているワイバーンを見た。
「済まん、ウィブも一緒だ」
それを聞いてウィブが喉を鳴らす。
「ウィブがいなければ空を自在に飛べないからな」
ウィブは喜んで翼を広げた。
「でもゼロさん、それでは危険なのでは」
「ララバイ、危険は危険だ。だがお前たちまでその危険に近付く事は無い」
「しかし……ここマルガリータ王国は私の、私たちの国です。国王が逃げたとあっては、民に申し訳が立ちません!」
ララバイはいきり立つが、だからといって俺は自分の考えを変えない。
「お前は民を引き連れてこの町から逃げるんだ。人間は血の詰まった革袋だからな、ブルードラゴンに水分を吸わせないためにも、ここは退いてもらう」
「ですが……」
「お前の民だ。お前が先導しなくてどうする」
「ゼロさん……」
ララバイは自分の事ならいざ知らず、国民のためと言われれば拒否は出来ないだろう。
俺はそう踏んで、ララバイに避難させるようにした。
「判りました、そのようにいたしましょう」
「頼んだぞ。これで俺も思いっきり戦える」
ララバイはうなずいて俺の決意を承諾する。
「日が高くなるとウォーテールが襲ってくる時間になります! もう間もなくですので、お気を付け下さい!!」
ララバイは町の人たちを引き連れて町から離れていく。
その反対側の空に、黒い点が見えた。
「来たか、ウォーテール」
俺の声が聞こえたのかは判らないが、ブルードラゴンが遠くにいるにもかかわらずブレスを吐き出した。
「おわっと!」
狙ったのか、奴のブレスは俺の足下に着弾し、小さな竜巻を発生させる。
「これだけの距離でこの威力か……。ブルードラゴン、なかなかやるな」
俺の声にルシルが反応した。
「ゼロ、ウィブに乗って! もう行くよ!!」
既にウィブの背中にある鞍のに乗って、ルシルは俺を手招きする。
「判った。ウィブ、頼むぞ!」
俺はウィブの背に乗り、だんだんと大きくなるブルードラゴンの姿ににらみつけていた。
「行くぞ勇者、嬢ちゃん!」
「ああ!」
ウィブは大きく翼をはためかせて飛び立つ。
身体に圧力がかかって背が縮みそうになるが、これはウィブの背中で何度も体験した事だ。
「勇者よ、あのドラゴンと戦って勝ち目はあるのかのう」
「ウィブが弱気になるとはな」
「それはそうであるのう。ドラゴンとは流石に儂も骨が折れるからのう」
「判った。治癒の連携は任せろ。お前はドラゴンに接近してくれればいい!」
「仕方が無いのう!!」
ウィブは急旋回してブルードラゴンの脇腹を攻めようとしている。そこであればドラゴンの比較的柔らかい部分を狙えるという事。
「Rランクスキル発動、雷光の槍! 貫けっ、怒れる雷よっ!!」
俺の手から放出される電撃の矢がブルードラゴンの脇の下へ命中する。
「ゴガァァアァァァ!!」
苦しそうに悲鳴を上げるブルードラゴン。
「少しは効いたか?」
俺の独り言を止めようとしているのか、ブルードラゴンの尻尾が俺たちに向かってくる。
「ウィブ、避けろっ!」
「承知っ!!」
ウィブは向かってくるブルードラゴンの尻尾をギリギリの所でかわす。
「もう一つ、食らわせてやるか!」
俺はさっきの攻撃で脇の下の鱗が剥がれている位置を狙って、また雷光の槍を繰り出した。
俺の放った電撃がブルードラゴンの肩に命中。続けて放った電撃は、ドラゴンの鱗を伝うように拡散していく。
「狙うは腕を上げた時! 脇の下が狙い目だっ!!」
俺は自分に言い聞かせるように叫んだ。
併せてウィブの背中から電撃を放ち続け、その中の一発が鱗の剥がれた所へと命中する。
叫ぶブルードラゴン。
「だがっ!! これでは終わらせないぞ!」
俺はもう一度手に魔力を込めて、電撃をドラゴンに放った。