水対策で吸い取られて
平原の中に通る道がいくつも折り重なり、大きな町に集まっていく。中央の大切な地区を守るように城壁が出来ているが、その周りにもバラックのような小屋が無数に建っていた。
「マルガリータ王国もかなり賑やかになってきたな」
俺はララバイの後ろを付いていく。
「私たちが過去からこの時代に移り住みまして、そこから一気に流通が激しくなりましたもので。流石に千年前の城壁は崩れてしまっていましたけど、当時の町並み、区画を上手く使って再建することは簡単でした」
「だが、あの当時よりも人が多いように見えるが」
「そうですね、商人が行き交う中心地として急に発展したものですから、城に収まりきれない人たちがスラムを形成していたりしまして」
「治安は悪くなっていないのか?」
「難しい所です。いつの時代にも悪事を働く者が絶えませんので、町の整備と警備である程度は」
ララバイは思い通りに行かない政治に加えて今回の襲撃だ。疲労の色が濃く出ていた。
「民の生活を豊かにするためにも、治水が必要だったという事か」
「その通りです。流通によって食料はどうにかなりますが、水が無いと生きてはいけません」
「だがその治水工事でブルードラゴンの縄張り争いになったのか」
「はい。ウォーテールは西の海岸近くに住むドラゴンでした。下流の排水に運河を造っていたのですが」
「別の運河を造って、ドラゴンの縄張りから出て行くっていうのはどうなんだ?」
ララバイは首を横に振る。
「私たちが引き下がっても、一瞬だけとはいえ領域に入った者は許さないようなのです」
「なんともなあ……」
話ながら俺たちはララバイの執務室に案内された。
「適当におかけになって下さいね」
ララバイにうながされ、俺たちは来客用のソファーに腰掛ける。
壁に掛かっている肖像画やカーテンなどは、あまり華美ではないが質がよさそうだ。
「流石に流通の要衝なだけはある。いい物が入ってきているみたいだな」
「まあ、私としてはこれでさえ豪勢だと思うのですけどね、豪商とも会談をする機会もありますので、国王としての体裁も考えるとこれくらいはどうしても」
「いやいや、そう謙遜することもないだろう。国王が貧しい暮らしをしていると、利益を求める商人たちも贅沢が出来なくなってしまう。見せかけだけでも豪華な姿を見せるというのも大事だぞ」
「そんなものですかね。元々三男ですから、豪華とか贅沢とかは私にはどうもしっくりこなくて」
「まあ徐々に慣れていけばいいさ。それはさておき」
俺は部屋の端に置いてあった模型に近寄る。この辺りの地形と建物を再現したミニチュアで、運河の建設計画も形になっていた。
「上流はそれなりに大きな池があるな?」
「ええ、この池から生活用水を引き入れるのが、この運河計画の基本です」
「ふむ。今は工事をしているから水は少なめにしているとか?」
「そうです。でも工事はほとんど進んでいないのです。ウォーテールのせいで……」
「なるほどな。ちょっと大変かもしれないが」
俺はミニチュアの池にある水門の模型を指で弾く。
「なっ、ゼロさんなにを!?」
「見ての通りだララバイ」
模型の運河は俺の指で破壊されて大きくえぐれていた。
ミニチュアでは水は流れていないが。
「ララバイ、案内を頼めるか?」
ララバイに拒否する様子は見えなかった。