水分補給
ブルードラゴンと戦っていた天馬騎士たちは逃げるか撃ち落とされるかして空中には残っていない。俺たちも墜落した所でブルードラゴンが西の方へと飛び去っていった。
セシリアが俺に肩を貸しながらつぶやく。
「どうして襲ってこないんだ……」
俺は水分を抜かれて思考もままならない状態。頭も痛くなってきた。
セシリアの腕は枯れ枝のようになったままで、腐り落ちてしまうだろう。俺もウィブもこのままひからびて死んでしまうのか。
「ドラゴンは……もういないのか……」
「そんなのどうでもいいから、ゼロをそこに座らせて!」
セシリアはルシルが指定した場所に俺を座らせる。
「SSSランクスキル、蘇生治癒!」
ルシルの手が明るく輝き、それに合わせて銀枝の杖も光り始めた。
「身体の中の水を生成して、血液を循環させる!」
最高レベルSSSランクの治癒スキルで俺の身体に潤いが戻ってくる。
「お、おお……」
乾燥していた肌にもみずみずしさがあふれ、同時に若さも取り戻したような気がした。
「助かる、ルシル。ふぅ、これで一息つけた」
「よかったゼロ!」
ルシルは俺の首に腕を回して抱きついてくる。
俺の顔に自分の頬を当ててすり寄ってきた。
「うん、お肌もちもちしてる!」
ご満悦。それはよかった。
「ルシル、済まないがセシリアとウィブにも治癒を」
「うん、でももうちょっとこのままで……」
俺に抱きついたまま離れようとしないルシル。
「あ、じゃあちょっとウィブには俺が……Sランクスキル発動、重篤治癒。体液が体内で増えるように……」
俺はルシルにしがみつかれながらウィブの治癒を行う。
「お、これは……なんだか身体が軽くなったような気持ちだのう!」
ひからびていた身体が元に戻ることでウィブも元気になる。
「これはじっとしていられないのう!!」
いや、それどころか血が増えたからだろうか、元気すぎるくらい元気になってしまった。
翼を大きく広げて飛び上がると、一気に上空へと羽ばたいて行ってしまう。
「俺のとルシルの治癒じゃあ少し効果が違うからなあ。あんなに元気になっちゃうなんてな……」
俺は元気すぎて空を飛び回るウィブを見て、心配しすぎだったと思った。
見ればセシリアの腕もルシルが治してくれている。
「落下した天馬騎士も助けられる奴はいるかもしれない。手分けをして探そう! ウィブ、降りてこい!」
俺はルシルをウィブの背に乗せて空から天馬騎士たちを探させ、俺はセシリアと共に地上から探す事にした。
「ねえゼロ、私ゼロと一緒に行きたいなあ」
「治癒が出来るのは俺とルシルだけだから、二手に分かれた方が効率的だ。少しでも多く助けたい。頼めるだろうか」
「う、うん。ゼロに頼まれちゃったら、引き受けないとねえ。しょうがないなあ……」
「ありがとうルシル」
「判ったわよ。じゃあウィブ、よろしくね!」
ウィブは返事の代わりに大きく翼を広げる。
「じゃあ行ってくる!」
「頼むぞルシル! ウィブ!」
ルシルたちはすぐに空へと飛び立ち、辺りを旋回し始めた。
「セシリア、俺たちも近くに落下している兵がいたら助けるぞ」
「ああ判った婿殿。少し気になるのだが」
「なにがだ?」
「あの方角、柵のような物があるな」
セシリアの指さす先には、木で組まれた柵や櫓が見える。
「誰かいるかもしれない。行ってみよう」
「ああ」
俺たちが駆け寄ると、そこにはまともに見る事ができない程の悲惨な光景が広がっていた。