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空でのめぐりあい

 マルガリータ王国が近付いてくる。空を飛んでいる俺たちは高速で移動していた。

 晴れ渡った天気の中、ところどころに浮いている雲を突っ切って散らしていく。


「無理をさせてしまって悪いなウィブ」

「なあにこれくらい、たいしたことは無いのう」


 俺は鞍から乗り出してワイバーンの首筋をなでる。

 ウィブは二、三度翼を羽ばたかせて、更に速度を上げた。


「どうだルシル、マルガリータの様子は」

「今の所まだ……壊滅はしていないくらい」

「そうか。どうにか踏みとどまってくれよララバイたち……」


 マルガリータ王国は平地に建てられた平城を首都としている。交通の要衝であり、様々な地方の文化が入り交じる商人の国だ。

 当時第三王子だったララバイが王位を継いだ時、妖魔との戦いにもどうにか生き延びた城だが、地形も建物も防衛には向いていない。


「おい婿殿! 前方になにか見えるぞ!」


 セシリアが遠くを指さす。大きく動く点と、それを取り巻くいくつかの小さな点が見えた。


「ブルードラゴンか! その周りで飛んでいるのは……天馬騎士ペガサスナイト!?」

「ゼロ、天馬騎士ペガサスナイトってマルガリータの精鋭部隊だよね」

「ああ、先代の王が私兵として使っていたというやつだが、そうか、ララバイが復活させたのか。確かにマルガリータはただでさえ守りにくい城だし、空からの脅威には無防備と言ってもいいくらいだからな」

天馬騎士ペガサスナイトが空の守りを務めているのね」

「そのようだ。だが……」


 だんだんと近付くにつれて戦況が見えてくる。


「その天馬騎士ペガサスナイトも数を減らしていく一方だ。ブルードラゴンへ有効な攻撃が出来ていない」


 次々と撃ち落とされていく天馬騎士ペガサスナイト。ドラゴンブレスは嵐のような激しい水の流れが直線的に放出される。

 直撃を受けた天馬騎士ペガサスナイトは抵抗も虚しく叩き落とされていく。


「命を懸けた時間稼ぎか」


 天馬騎士ペガサスナイトたちは勝てる戦いだとは思っていないだろう。それでも果敢に攻撃を繰り返す。自分たちが引き伸ばした時間で、次のなにかにつなげるため。


「それが俺たち、なのかもしれないが」


 生き残っている天馬騎士ペガサスナイトたちを一人でも救えるように、俺とルシルで遠距離攻撃を行う。


「当たらなくても、ブルードラゴンの攻撃を邪魔できれば!」

「うん!!」


 火の玉や電撃を放ち、ブルードラゴンの動きを牽制する。


天馬騎士ペガサスナイトには当てないようにな」

「わ、判ってるって!」


 冗談を織り交ぜながら、ブルードラゴンに攻撃を当てていく。

 ブルードラゴンは大きく首を巡らせて俺たちに顔を向けた。


「俺たちを認識したな……これで天馬騎士ペガサスナイトが無茶をしなければ助かるか」


 挨拶代わりにブルードラゴンが俺たちに向かってブレスを吐く。


「ウィブ、回避だ!」

「承知!」


 ウィブも百戦錬磨のワイバーンだ。ドラゴンとの空中戦も数をこなしている。

 ブルードラゴンのブレスは直線的なもので、これは先のグリーンドラゴンの雲のように膨らむブレスとは様子が異なるが、それにもウィブは瞬時に対応できていた。


「これくらいなら避けるのはできると思うがのう……」


 近くを嵐のような水流が飛んでいく。

 ウィブが旋回してこれを回避する。


「む、婿殿……」


 セシリアが自分の右手を俺に見せた。

 歳を取ったような、老婆のような手だ。


「どうした!? なんだこれは!!」

「判らない……手に力が入らないんだ……」


 ブルードラゴンのブレスが俺たちの側を通過する。


「当たってはいないのに……」


 直撃は回避しているが、この攻撃はいったいなんなんだ。


「セシリアは、大丈夫か……」

「あ、ああ。どうにか。でも、でも、婿殿が!」

「えっ!?」


 俺は自分の手を見てびっくりする。


「シワシワだ……手も、腕も……」


 自分の顔に手を当てると、カサカサとした皮膚の感覚が手に伝わった。


「婿殿、顔が……老人のようになっているぞ」

「どういう事だ、これは……」


 俺の身体もカサカサのシワシワになっている。

 ブルードラゴンのブレスを食らっていないのに、その影響が俺たちに出てしまっていた。


「ぐ、済まぬ勇者よ……」


 ウィブの動きが鈍くなる。


「どうしたウィブ!」

「すまぬ勇者よ、儂も奴の効果を受けてしまったようでのう、力が出んのだのう……」

「ウィブ……」


 ウィブは硬い鱗で覆われているから気が付かなかったが、俺たちみたいにかなりの水分を吸い取られていたのだろう。

 翼の動きが急に止まり、きりもみ状態で落ちていく。


「くそっ、水分を抜かれただけでこんなに力が入らないのか……。魔力も維持できない」

「ゼロ! このままじゃ……」

「ルシル、墜落する直前で地面に向けてスキルを放つぞ……」

「判った!」


 回転しながら落下していく中で、それでもなんとか体勢を立て直す。


「SSSランクスキル発動、地獄の骸爆(ヘルズ・バースト)! ルシル、これに重ねてくれっ!」

地獄の骸爆(ヘルズ・バースト)ォ!!」


 俺の爆炎にルシルの力も加わり、落下していた俺たちが少しだけ浮き上がる。

 それでも力が出なくて効果が薄い。ウィブの巨体ごと地面に激突してしまう。


「くっ、やってくれたな、ブルードラゴン!」


 倒れたウィブの脇から抜け出して俺は空を見上げる。

 ブルードラゴンは悠々と上空を旋回していた。

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