車座になって話をすると
俺たちは小屋の中で輪になって座る。
粗末なむしろを敷いているが、今はみすぼらしさも気にしてはいられない。
「それで、ゼロちゃんが聞きたい事っていうのは?」
「ああ、それなんだが。フォレンドが暴れ始めたのは最近の話だよな」
俺はいきなり核心を突く。
「そう……だね。言われてみれば確かに、急に大暴れしたりドラゴンブレスを吐いたりしていたのは、最近だったかも」
「それまでは荒ぶったりしなかった?」
「うん。人や動物は襲っていたけど、苦しむように暴れ出したのはつい最近……」
「いつくらいだ?」
アラク姐さんは宙を見つめて思い出そうとする。
「そうねえ、数日前、かしら。あまりに急だったものだから、アラク姐さんも心配になっちゃってね。ゼロちゃんが来る前に村の人たちが全員殺されちゃったりしないかって思って」
「間に合った、かな」
「うん。そういう意味じゃあ間に合ったね」
アラク姐さんは俺に向かってウインクをして、それを見ていたルシルとセシリアがアラク姐さんをにらみつけていた。
「数日前……天界の連中が関係している、とかはないかな」
「天界? 天界なんかあのグリーンドラゴンになにか影響しているの?」
「これは俺の推測だが、数日前と言えば俺たちは天界でドラゴンたちと戦っていたんだ」
俺は天界で起こった内容をアラク姐さんに教える。
「それで、ドラゴンを操っていた奴を滅ぼした、と」
「俺が知っている限りの事だから、もっと別の理由があったかもしれない。だが、異世界から来たプレイヤーが消えたのは、時期的に一緒なんだ」
「ホワイトドラゴンを操っていた程の力だものね、それが地上界のグリーンドラゴンになんらかの影響を及ぼしていたとしても、おかしくはない……って事ね」
「ああ。それで気になるのがあるんだが」
俺はあぐらをかいて座ったまま、上半身を前に乗り出す。
「フォレンドがおかしくなったのが天界の影響なら、他にも同じような状態になっているドラゴンがいるんじゃないか、ってな」
「えっ!?」
アラク姐さんは驚きすぎて仰向けにひっくり返りそうになった。
なんとか背中の脚で体勢を整えるが、それでも顔がこわばったままになっている。
ルシルが俺の膝に手を添えて近付いてきた。
「でもさゼロ、そうだとしたら範囲はどれくらいになるかな」
「フォレンドのいた森は俺たちが天界から降りてきた場所に近い。距離が影響しているならこの近辺だけだとは思うが、大人のドラゴンがひしめき合っているとは思いにくい」
「だとすると、遠くのドラゴンは無事なのか、それとも暴れちゃっているのかは判らないって事?」
俺はルシルの言葉にうなずいてみせる。
「各地の領主や部隊と連絡を取って、状況を確認する必要がありそうだな」
「大陸全体、だよね?」
「ああ。確認してなにもなければそれでよし。なにかあればすぐに駆けつけよう」
ルシルは大きくため息をついて、俺の膝を優しくなでた。
「またゼロが忙しくなっちゃいそうね」
「ははっ、そうならないよう祈ってもらいたいな」
ルシルが心配してくれるのはありがたいが、だからといって世界の混乱を見逃してはおけない。
「やっぱりな……ゼロ、ごめんね」
「なんだよルシル、急に謝るなんて」
「あのね、黙っていようと思ったんだけど、やっぱり言うとね」
ルシルは言い淀んだが、それでもなにかを決意したようで、一呼吸入れて俺に打ち明ける。
「今さっきなんだけどね、思念伝達でララバイから知らせがあったの」
「ララバイ? マルガリータ王国のか」
小さく、それでいてしっかりとうなずくルシル。
「青い龍、ブルードラゴンがマルガリータ王国を襲っている、って」
俺を含む周りの連中が一斉に息を呑む。
水を操るドラゴン、それがマルガリータに。
「ゼロちゃんの予想が当たっちゃったのかな」
「ふぅ……。こんな事で実現して欲しくはなかったが」
俺は立ち上がると装備を確認する。
「ゼロ、ウィブを呼んでおいたよ」
ルシルがワイバーンを思念伝達で呼び寄せてくれていた。
「ありがとう。ウィブが到着したらマルガリータに乗り込むぞ」
俺の言葉にルシルたちがうなずく。
ルシルの言う通り、俺にゆっくりできる日が来るのか心配になってきた。