昔の姿に戻るため
晴れ渡る空。ぽっかり空いた森。ここにあった彫刻の山は燃えかすとなって崩れ去り、火消しの時に使った水でぐちゃぐちゃになっていた。
「ねえゼロ、見て」
ルシルが森の中の岩場にしゃがみ込んで俺を手招きする。
「どうした?」
「ほらここ!」
ルシルの指さす先には濡れた岩が転がっていた。
「こんな所まで水が飛んでいたのか。あっちこっちで水浸しだな」
「へへ~、そう思うでしょ?」
なにかを見つけた子供のように笑顔で俺を見るルシル。
「ここだけ綺麗な水……あれ? 続いている?」
「うん」
岩の隙間から透明な水が出ていて流れを作っている。
「ここって、湧き水か」
「そうだよ。あの川の水源だね」
「へぇ。こんな所にねえ」
「同じようなのが他にもいくつかあってね、それが集まって川になっているんだ」
「ふぅん。という事は、あの川みたいにここも酸が強い水だったり……」
俺は水の中に指を入れてみた。
「おや?」
次は身に付けていた鉄の腕輪を水にひたす。
「ちっともピリピリしないし、鉄も溶け出さないな」
「でしょ?」
「これは真水、なのかな」
俺は手ですくって口に含んでみる。
「う……ん、しびれるような感じはしない。普通の水、いや、綺麗な水だな」
「きっとね、グリーンドラゴンのブレスとかで川の水が強酸性になっちゃったんだと思う」
「あいつのせいか……」
「酸の素がなくなって、こうやって水が湧き出してくると、川も前みたいによみがえってくるんじゃないかな」
「そうか、それならまた人も生活できるし、動物たちも戻ってくるかもしれないな。水質調査にセシリアが行ってくれているが、いい答えを持って帰ってくれそうだ」
水が戻ってくる。そして自然も。
「でも待てよ、川に魚の死骸がたくさん浮かんでいた。それに森もまだ枯れてはいなかった」
「そうだね、でもこれで元に戻るんじゃないかな」
「原因がフォレンドだとして、その考えは正しいと思う。でも、急な酸化が起きたって事はちょっと違うかな」
「ん、どういう事?」
この森にフォレンドが居座っていたのはそれなりに長い年月。それは積み上がった木の山からも判る。
だが、自然環境が急に変化したのはここ最近のはず。でなければ魚が今まで生きていた説明が付かない。
「フォレンドはそこそこ長い間、ここで彫刻を集めていた。人間を奴隷として売った金を使ったり、強制労働で造らせたりして、だ」
「うん、そうだったみたいね」
「その頃から川が酸化していたら、魚はもう既に死滅していたはず」
「えっ!? あ!!」
ルシルも気が付いた。
「あれだけの強い酸だ。それが長い間吐き出されていたら、この辺りの木々も枯れてしまっただろう」
「ドラゴンが長いこといたのに、そのドラゴンの酸で森は破壊されていない……そうよ、時間が合わない!」
「フォレンドが暴れたからこの森に生き物がいなくなったのか、それともフォレンドが急に森を破壊し始めたのか……」
焼き滅ぼしてしまうのは気が早かったか。もう少し死骸を調べていれば、詳しい情報が得られたかもしれない。
「いや、今さら後悔しても遅い。急にドラゴンが変化した、その線で洗ってみるか」
俺は焼け焦げてくすぶっている山を見て、気持ちを切り替えることにした。