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価値とつなぐ者

 彫刻を積み上げた山は木で出来ているだけあってよく燃えた。周りの森へ延焼しないように気を付けつつ、フォレンドの集めた山は燃えるに任せている。


「私には美術品とかの価値ってよく判らないけどさ」


 ルシルが盛大に燃える山を見つめて独り言のようにつぶやく。


「燃やしちゃってよかったの?」

「そうだなあ、美術品や工芸品って言っても、これはフォレンドが人々の犠牲の上に集めた物だからな、嫌なことをいつまでも残しているよりは、きれいさっぱり無くなってしまった方がいいと思ったんだ」

「そう……」


 炎に照らされて赤い顔をしているルシル。その視線の先には捕らえられ奴隷として強制的に働かされた人たちが作った山の燃える姿があった。

 きっと俺も誰かの犠牲があって今があるのかもしれない。


「いや、できたら俺は犠牲じゃなくて協力の結果として今があると思いたい」

「ん? どういう事?」

「俺がこうして生きているのも、フォレンドみたいな搾取や犠牲の上に成り立っているんじゃないかってさ」

「う~ん……、生きるってそういう事でしょ?」


 ルシルは別に悩む風でもなく。


「生きている限りはなにかを食べるでしょ。動物の肉だけじゃなくて、草木だって長い目で見れば生きているし、その生きているものを食べて私たちが生きている」

「そうだな」

「例外は、まあいくつかあると思うけどね。岩喰い(ロックイーター)とか、熱吸い(ヒートバイト)とかは、魔法生物みたいな所はあるから」

「ま、まあそいつらはちょっと特殊だけどな。でもまあルシルの言いたいことは解ったよ」


 妙に落ち込んでいる俺を見て、ルシルなりの励ましをしてくれたのだと思う。

 普段は他人の命なんて軽視している奴なのにな。


「それでゼロ」


 ルシルは薪をくべるように、下に転がっていた彫刻を火の中に放り投げた。

 彫刻と言っても、木材に多少の切れ目を入れたくらいの荒いやつだったが。


「いつまでこの山の監視をしているの? もうアラク姐さんたちは助けた村人を連れて避難場所まで行っているし、あとは私たちだけだよ」

「ああ。セシリアにも川の水質調査を頼んでいるしな。俺はもう少し火を見張っていようかと思うが」

「ドラゴンはもう焼けちゃったよね?」

「そうだな、さっき見に行った時には炭になっていたからなあ」

「見に行ったの? 温度変化無効のスキルと火蜥蜴の革鎧があるからって、この炎の中?」


 俺は小さくうなずく。


「これくらいなら焼け焦げも作らないで行ってこられるからな。この鎧もたいしたものだよ」

「いやそういう事じゃなくてさ……まあいいや」


 ルシルは銀枝の杖を振りかざし、燃える火の山に向けてスキルを発動させる。


「SSSランクスキル地獄の骸爆(ヘルズ・バースト)!」

「えっ?」


 ルシルの放った爆炎が巨大な山に当たって大爆発を起こす。さっきまで燃えていた山を一瞬で吹き飛ばした。

 それまで燃えていた木は瞬く間に灰となり、爆風に乗って辺りに散ってしまう。


「ほら、こうやって一発で消しちゃえばよかったのに。ずっと燃えるのを見ているなんてゼロも面倒な事をするよね」

「あー。そっか」

「なに?」


 ドラゴンが復活しないことを確認できれば、別に山が燃えている事を見守っている必要はなかったのかも知れない。


「俺も感傷的になっていた、というのかな」


 つぶやく俺に、ルシルがそっと腕を絡ませてきた。


「火を見るとね、そういう気持ちになるの、あるよね」


 吹き飛ばされた木の破片がくすぶっているが、あらかた炎は消えて……森の中で下草から煙が。


「な、なあルシル」

「なに?」

「さっき吹き飛ばしたやつ、まだ完全に消えていないみたいだけど……」


 森の中にまで飛んでいった燃えかすがあちこちで燃え始めた。


「あー、炭みたいになったやつが飛んでっちゃったのかな?」

「飛んでっちゃったのかなじゃなくてさ、これじゃあ……」


 さっきよりも広範囲に、今度は森も巻き込んで辺り一面燃えてくる。


「おいおい、こりゃあまずいぞ!?」

「でもさ、ドラゴンのせいでこの辺りの動物はいなくなっていたんでしょ?」

「いやさっきお前も草や木だって生きているとか言っていたじゃないか、ってそういう事じゃなくてさ、山火事になったら大変だろうって話でさ!」

「あー……。ま、大変、かな?」

「えー……。Rランクスキル発動、氷塊の槍(アイススピア)! 氷で少しでも!! ルシル~、俺は水系あんまり得意じゃないんだからさー、頼むよ~」


 俺はいろんな場所で燃え始めた炎を氷で消しにかかるが、効率はよくない。


「しょうがないなあ、Rランクスキル海神の奔流(ウォーターバースト)~」


 俺たちは吹っ飛ばした炎の火消しに追われてしまった。楽をしようとしたのに、余計な手間がかかってしまった訳だ。

 でもなぜか、こっちの方がルシルは生き生きしているようにも見えた。

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