切られた火蓋
けだるげに、面倒くさそうな視線を俺たちに投げつけるフォレンド。
俺はその態度を見てもイラッとはしないつもりだったが。
「なあアラク姐さん、俺たちをここに連れてきたのはこのためか?」
アラク姐さんはなんでも見通しているというような笑顔を返してくる。
「なるほどな、理解したよ」
俺は右手を突き出し、フォレンドと正面から向き合う。
「ほう、こやつらはただの奴隷商人ではないのだな?」
フォレンドは少しだけ俺たちに興味を持ったらしい。アラク姐さんにたずねてきた。
「はい、左様です。この者たちは彫刻とはまた違った楽しみをフォレンド様にご提供する事ができると思いまして、この場につれて参りました」
「なるほど、それは楽しみだて」
フォレンドはゆっくりと立ち上がる。
四肢を踏ん張り、首をもたげたその姿は俺の背丈よりもはるかに大きい。
「さてと、どれ程我を楽しませてくれるのか」
「いいだろう、お前にとって命がけのハラハラする娯楽の始まりだ! Rランクスキル発動、雷光の槍っ!! 貫け、電撃の牙よっ!!」
俺の発動した電撃がフォレンドに向かって解き放たれる。
「ほほう、いきなりとはやりおるなあ!」
フォレンドは右の翼で俺の電撃を跳ね飛ばす。
「詠唱も短い。それに威力もなかなかであるな。Rランクだというのにこの速さと強さは誇りに思ってもよいぞ」
偉そうにフォレンドが採点する。
「それはどうも……SSランクスキル発動、豪炎の爆撃! 食らえっ炎の爆発をっ!」
俺は矢継ぎ早にスキルを発動させた。右手から放たれた炎の塊が赤々と周りを照らす。木の山の表面が焦げ臭い匂いを放つ。
「ほほう、木の山にグリーンドラゴンと見て炎に切り替えおったか」
俺のスキルが発動したものの恐怖にも感じていない様子だ。
「だがその程度の炎、儂の身体を燃やすにはあたわず!」
フォレンドが口を大きく開き、俺の放った炎の塊をブレスで吹き飛ばしてしまう。
ドラゴンブレスは俺の放った炎を消し飛ばすだけではなく、飛沫も拡散していく。
「おわっと!」
俺は後ろに跳んで飛沫をかわすが、地面に落ちたドラゴンブレスが木を焦がしていく。
「おわぁ、我のコレクションがぁ! 人間めぇ、我のブレスを避けるとは!」
「いや避けるだろ! そんなもん浴びたら溶けちまう!」
「人間は溶けても構わんが、我のコレクションを汚すことは許さんぞぉ!!」
フォレンドが吠えながら地面を踏みしだく。
そのたびに木の破片が辺りに飛び散っていくが、それでも地面を踏みつけ続ける。
「ちょっと待てよ! 木を焦がしたのはお前のブレスだろうが!」
「ええい、黙れぇ!!」
怒りにまかせてフォレンドがドラゴンブレスを吐きまくり、周りの調度品を焦がしていく。
「人間めぇ!! ええい避けるなっ!」
「くそっ、こいつの頭はドラゴンというよりはトカゲ並みだなっ! 自分でやらかしてやがるのに、それを押さえようともしない!!」
俺はドラゴンブレスをかわしながら反撃のチャンスをうかがう。
「なあアラク姐さん!」
「なに?」
なんでこんな時にもアラク姐さんは冷静なのか。
戦いに巻き込まれない距離を保って、俺とドラゴンのドタバタ劇を見ている。
いや、ルシルとセシリアも俺を応援しているものの、なにかの興行のように戦いの様子を眺めていた。
「まさかこれって、俺が道化みたいじゃないか……」
暴れるドラゴンの攻撃を避けながら、俺は次の一手を考えていた。