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命懸けの取り引き

 俺たちが持ってきた荷車のフードをアラク姐さんが引っぺがす。


「ほほう!」


 フォレンドの影が感嘆した声を上げる。

 荷車の上には人間の大きさ程のドラゴン像が置かれていた。木製で彫刻された物だ。


「これは見事! フォレンドも喜ぶだろうて! ひっひっひ」

「それはなによりです」

「これ程の品が手に入るとは、そうなると今使役しておる奴らはどうかのう?」

「ここまでの技は持ち合わせていないでしょう」

「であろうな」


 アラク姐さんはフォレンドの影、声のする方に鋭い眼光を向ける。

 フォレンドの影はそんな様子もお構いなしに興奮した声を上げていた。


「アラク姐さん、このドラゴンの像……」


 俺は声を殺してアラク姐さんに問いかける。


「判ったかなゼロちゃん」

「ああ、繊細な削り出し、生きているかのような躍動感。これ、エルフの職人が造ったやつだろう?」

「その通りよ」

「だったらそんじょそこらの職人じゃあ太刀打ちできない品質だぞ。村規模の木工職人じゃあ差がありすぎる」

「いいのよそれで」


 アラク姐さんがほんの少し、口の端から笑みがこぼれた。


「ひっひっひ、これはいい! 見事よのう蜘蛛女よ!!」


 影が濃くなり、中から人型の塊が出てくる。

 奥で赤く光る瞳がこの世の者とは思えないおぞましさを感じさせた。


「蜘蛛女よ、いいだろう。フォレンドへの面会を許そう!」

「ありがとうございます」


 アラク姐さんが頭を下げる。


「付いてこい」

「はいっ……さあお前たち、像を運ぶんだよ!」


 アラク姐さんの掛け声で俺たちは荷車を運び、フォレンドの影とアラク姐さんの後を付いていく。


「外の職人はこんなにいい物を造るんだねぇ。いい事を教えてもらったよ」

「いえ、更に技術の高い者もいると聞きます。世界は広いです」

「そうかそうか」


 フォレンドの影はご機嫌で木の山を登る。


「さあ、頂上にいるドラゴンがフォレンドだよ、ひっひっひ……」


 影はそれだけ言い残して、霧のように消えてしまった。

 その影が薄くなった先、木で積み上げられた山の頂上にドラゴンが寝ている。


「こいつが……」


 ドラゴンは太陽の光を浴びて身体を温めているのだろう。呼吸に合わせて光沢のある鱗がきらめいていた。


「おお、蜘蛛女か」


 ドラゴンは寝そべったままでアラク姐さんに話しかける。

 低音の声が木の山を震わせて、あちこちできしむ音が聞こえた。


「影から聞いたぞ。今回の彫刻はすごいようだな」

「はい、こちらでございます」


 俺たちは荷車を前に持ち出して、上に載せているドラゴンの像を持ち上げる。


「ほう、これは見事だのう」

「ありがとうございます」

「ふむ、そうなると今の職人どもは不要になるか」

「左様ですか?」

「そうだろう。これだけの物が世の中にはあるのだ。この出来に満たぬ物を造ったとて我が寝床の質は上がらぬからな」

「なるほど、ご慧眼ですな」


 アラク姐さんがうやうやしくうなずく。


「そうしますと、今抱えております職人どもはいかがいたしましょう」

「そうさなあ、もはや我には不要だからな、適当に売りさばいてくるがよい」

「ははっ、御意のままに。それでは早速……おい、お前たち!」


 アラク姐さんは俺たちと一緒に来た奴隷商人たちに声をかける。


「お前たちはいらなくなった人間どもを集めて山を下りなさい。残した所で役に立たないからね、全員持って行くんだよ、いいね!」

「へい、姐さん!」


 男たちはアラク姐さんの指示通り、木の山を下りて小道に進んでいった。

 その先に奴隷にされた村人たちがいるのだろう。


「ん? その者たちはなんだ」


 フォレンドは俺たちに目を向ける。


「はい、これらは余暇の楽しみとして町から持ってきた者たちでございます」

「ほほう、それは面白い。どれ、我を楽しませてみせよ」


 フォレンドはあくびをしながら面倒くさそうに俺たちを見ていた。

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