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ドラゴンの影

 山。俺たちの目の前にこんもりとした山がある。近くで見るとよく判るが、この山は全て木でできていた。


「山、いや……小高い丘程度かもしれないが……これが全部木か? 要塞みたいな建物じゃないか」


 ただ木を積み上げているだけではない。木を組んでいくつもの塔を建てたり、屋敷のような建物があったりと、一つの町のような塊になっていた。

 それも一本一本の木にはかなり精細な彫刻が施されている。それだけでもどれくらいの人間がどれくらいの時間をかけて造ったのか。


「これを……集めているのか、フォレンドは。人間が造っているんだよな?」

「そうだよ。この木でできた要塞を造る人間はフォレンドのもとで強制労働をさせられているのよ」

「強制労働だって!? でもこの技術、精度は奴隷が嫌々作業をしてできる物じゃないだろう」

「ええ。中には喜んで木を彫ったり組み上げたりしている人間もいるわ。そういう連中はフォレンドにも価値があると認められているのね、殺されずに優遇されているわ」

「そうなのか……」


 そう考えればフォレンドは人間との共存もできているという訳だが。


「価値のない連中は、殺されたり木材の資金作りに売られるって事か」


 アラク姐さんは無言でうなずく。


「価値、ドラゴンの考える価値か」


 話ができれば活路は見いだせるかもしれない。そうでなくともグリーンドラゴン、そして木でできた要塞だ。


「ぐわっ!」

「ぎゃぁっ!!」


 俺の後ろでわめき声が聞こえた。

 振り向けば、俺たちと一緒に来た連中に、地面から生えてきた木の棘が刺さっている。


「どうした! 大丈夫か!」

「ぐ……平気だ……」


 腕を貫かれた男が歯を噛みしめながらも返事をした。


「これは……フォレンドの洗礼……。致命的な怪我にはならないが、奴は儂らの血を欲しているんだ……」

「血を?」


 棘に腕を貫かれた男の血がしたたり落ちる。その血が地面に届こうとした時、棘がまた音もなく縮んで地面に消えていく。

 それと同時に木の山から声が聞こえた。


「今回はどんな貢ぎ物を持参したのかえ?」


 大地を揺さぶる声、木の要塞に覆い被さるような黒い影が夜のとばりのように俺たちを包み込んでいく。


「ちっ」


 俺が剣に手を伸ばそうとした所でアラク姐さんが止める。


「待ってゼロちゃん、これはフォレンドの儀式なのよ。いつもの事……」


 こんな事をされても、反抗すらできないのか。

 後ろでは手当てを受けている男たち。痛みにうめき声を上げてはいるものの、死者は出ていない。


「なぶっていたぶって、それを受け止めなくてはならないのか……」


 俺は奥歯を噛みしめて我慢するしかないのか。

 俺の腕をつかむアラク姐さんの爪が食い込む。それだけ俺が力尽くで攻撃しようとしているのが伝わったようだ。


「大丈夫、大丈夫だ」


 俺は大きく息を吐いて気を落ち着かせる。


「大丈夫、剣は抜かない」

「判ったわ」


 両手を力なくぶらんと下げる事で、戦意を持っていない姿勢を見せた。


「フォレンドの影よ、アラク姐さんが来たわ!」


 暗い中アラク姐さんが声を上げる。


「捧げ物は受け取ったわよね! じゃあ次の取り引きをしましょうか」

「蜘蛛女か。ひっひっひ……待っておったぞ……」


 影がゾワゾワとうごめく感じがした。


「フォレンドに会わせてくれる? フォレンドの影よ」

「ふうむ、普段であればこれくらいでよしとするのだがなあ、ひっひっひ。今日はちと違う匂いがするぞ?」


 奴隷商人に扮した俺たちが見破られたのか。

 もしそうだとしたら、戦ってねじ伏せるしかないな。


「ええ、今回は少し趣向を凝らしてね」


 アラク姐さんが影に向かって両手を広げた。


「さぁ、これが今回の贈り物よ!」

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