ドラゴンへの道
俺たちはフォレンドのいる山まで向かう事にした。
洞窟を出て森の中を進む。
アラク姐さんがデュビア、そして手伝っている人間を引き連れて行く。納品するという品々を荷車に載せて俺たちが引っ張っている。しっかりとした道がない状態では荷車での運搬はかなり難儀な仕事だ。
「なあアラク姐さん、俺たちは村人たちと一緒でいいのか?」
「ああ大丈夫だ。フォレンドは人間に興味がないからね、アラク姐さんの手伝いをしている人間が多少入れ替わっても気にしないさ」
「それなら楽でいい」
「はっは! そうだね。アラク姐さんと奴隷商人の一団として、キリキリ働いてもらうからね」
冗談めかしてアラク姐さんが俺の背中を叩いてくる。
「ごほっ、ごほっ……だが、そのフォレンドというドラゴン、話に応じてくれるかな?」
俺の言葉に意外そうな顔をしたのはアラク姐さんだった。
「どうしたんだいゼロちゃん。アラク姐さんはさ、確かにゼロちゃんに会うためにドラゴンが人間たちに酷いことをしているのを見逃さないで動いていた。だから動機としては不純なんだけどさ」
「不純って言っちゃうんだ」
アラク姐さんの言葉にルシルが被せる。その顔は少し意地悪そうな、そしてちょっとむくれているような感じだ。その反応にアラク姐さんが慌ててとりつくろう。
「でも、アラク姐さんは人間を助けてきたんだよ。ずっとフォレンドと話をしていて、奴は人間と共生はできないって感じているんだ。それを話し合いなんて、今さら……」
「そうか。過去数百年、そのグリーンドラゴンが人間たちに手を出さなかったのは、単に人間との接触がなかっただけなのかな」
「ええ、フォレンドは山奥、森の奥に住むドラゴンなの。それはアラクネであるアラク姐さんは知っていたわ」
「人間とは違う種族として、森の中で生活しているには人間よりも便利な所はあるからね」
アラク姐さんは冒険者からは怪物、モンスター扱いされる種族だ。
確かに蜘蛛から派生した生物だから人間たちとは異なるが、こうやって意思疎通もできるし考え方も共有できる部分がある。
「だから俺はアラク姐さんを頼ってしまうんだがな」
「んなっ!?」
アラク姐さんの顔から湯気が出るくらい真っ赤になった。
「ちょ、そんな事言われちゃうと、アラク姐さんだって、ほら、大人の女だからねえ」
「ほらほらゼロ、お世辞はいいから。私たちはフォレンドから奴隷として人間を受け取る役割でしょ。それで、その見返りはどうするのよ?」
ルシルが話の進まない状況に苛立ちを隠せないでいる。確かに俺も疑問だった。
「金貨とかで納めるとしても、グリーンドラゴンは金貨を集める習性でもあるのか?」
「いや、それはないね」
即時に否定するアラク姐さん。
「金貨は人間の世界で有効に使える道具だという事を理解しているから、集めさせているだけに過ぎないんだよ」
「経済を理解している。そして人間の社会は認識している……」
「その通りよ。フォレンドは人間を邪険に扱うが、その人間たちが造っている木の加工品を特に好んでいるの」
「加工品?」
アラク姐さんがうなずく。
「ゼロちゃんたちに引っ張ってもらっているのがそれよ」
俺たちが森の中であくせくしながら引きずってきた荷車に載せているのが加工品という事か。
「まったく、面倒な物を運ばせてくれたものだなあ」
「そう言わないでよゼロちゃん。フォレンドの懐深くに潜り込むための策よ」
「判っているが……だったらなあ……」
「だったら?」
「いや、まあいいさ」
俺は説明するのが面倒になって、黙って荷車を引っ張ることにした。
フォレンドに会ってみれば、活路が見いだせるかもしれない。
人間を襲うグリーンドラゴンの巣穴が近付いていた。