助けるための人身売買
動機は不純かもしれないが、アラク姐さんは俺の事を想ってくれて、その結果として人間たちを助けてくれていた。
「初めの頃は苦労しただろうなあ」
俺がぼやくと、アラク姐さんが意外そうな顔を向ける。
「そうでもなかったよ。元々人間たちはドラゴンにとっ捕まった連中だし、アラク姐さんはほら」
そう言って背中の脚を器用に折りたたむ。
「脚さえ背中に隠しちゃえば、見た目は普通の人間に見えるでしょ? ううん、絶世の美女だからそっちの方にびっくりさせちゃうかもしれないけどね!」
「自信満々で結構だな」
「そう? ありがと!」
「いや褒めてないって」
「またまた~」
嬉しそうに身体をクネクネさせるアラクネのアラク姐さん。
「それで?」
俺たちの会話に割って入るルシルの声が厳しい。
「そのドラゴンってどう相手しているの?」
「そうだ、それは俺も気になっていた。ドラゴンに対して形だけでも人身売買ができるという事は、会話は成立するんだよな」
肩をすくめながら小さくうなずくアラク姐さん。
「その通りよ。あのドラゴン、グリーンドラゴンのフォレンドという奴なんだけど、フォレンドはちょっと変わったドラゴンでね、人をさらうのは食うためじゃなくて稼ぐためなのよ」
「稼ぐため?」
「うん。フォレンドは肉を食べないドラゴンなのよ」
「肉を食べない!? それはまたドラゴンとしては珍しい……」
イメージが思い浮かばず、驚いてしまった。
「フォレンドが森で暮らすために、邪魔な人間を排除するのに村を襲っていたんだけど、それでも人間たちには被害が出ちゃうのね。だからここでアラク姐さんの出番、って訳!」
得意気に胸を張るアラク姐さん。
「潰したり壊したりして逃がしちゃうより、使える状態で捕まえた方が価値があるって思わせたのよ」
「価値……商品として考えれば、自然と扱いが丁寧になる、と?」
「その通り! フォレンドの力が遠く及ばない町と交渉して人売りをすれば、フォレンドはそんな遠い所の話は気にしないし、売った金で巣穴を装飾できたりするからね」
「巣穴を飾り立てるのか」
「そう! 草食のドラゴンが巣穴を装飾するの!!」
一瞬、温度変化無効のスキルを持つ俺でさえ、冷たい空気が流れたような気がした。
ここは生暖かい目で見守ってやるとしよう。
「もちろん、逃がした人間たちは奴隷としてうっぱらうんじゃなくて、ちゃんと町の人たちと話をして、救済の募金を集めたり、フォレンドの喜びそうな装飾品を受け取ったりしたのよ!? 借りがあっても自由になればつかまっていた人たちも働いて返せるし、ね?」
アラク姐さんは後ろにいる村人たちへ救いを求めるかのように同意を得ようとしている。
「そ、そうです。儂らはこのアラクネ様に助けていただいて」
「ええ、あっしらは何度も装飾品のやりとりを手伝っていますし、最近はフォレンドの野郎につかまる前から逃げる算段をこしらえたりしていますんで!」
村人たちの中には、アラク姐さんを手伝っている奴も何人かいるみたいだ。
必死でアラク姐さんの言葉を肯定する。
「そうか、お前たちの目を見れば判る。恐怖や強制で言わされているのではないという事が」
「ゼロちゃん、だとすると……」
「ああ。俺たちも協力する。森に生き物がまったくいない事に疑問を持って始めた事だ。川の魚もみんな死んでいた。これはもしかして……」
「そうなのね、やっぱり……」
「強い酸がこの森を侵している。その元凶は」
ここでたどり着いた。森をこんな誰もいない場所にしてしまった奴に。
「グリーンドラゴン、フォレンド。ちょっと行って話を付けてこなくちゃならないようだな」
解決の糸口が見つかったようだな。
俺は指の関節をポキポキと鳴らして、深く息を吸い込んだ。