塩が作る豪奢な世界
吹き飛ばされた男を見てもう一人が俺ににらみを利かせてくる。
「何しやがんでこんちくしょ」
「遅い」
俺は男がしゃべり終える前に間合いを詰める。男が拳を振り上げ殴りかかろうとしたそれより先に俺が男の顔をわしづかみにした。
「お前たちはこのじいさんがこんな状態になっている理由を知っていそうだな、どうだ?」
「ひ、ひらない……」
俺の手が男の口も歪めているためにまともな言葉が出てこない。発音も、内容も。
「なら誰が知っている。このままお前のあごを握りつぶす事もできるのだぞ。まだ口が使えるうちに使った方が賢いと思うがな」
男はどうにかうなずこうとするが俺が押さえているため思い通りに動かない。
「わ、わはった、あの人、あの人ふぁ……」
俺は手がかりになる情報を聴けたので男を解放する。そのまま手を押し出して放してやると外にある墓石に激突して倒れた。
「ふむ、なるほどな」
「ゼロさん……」
シルヴィアも男が口にした内容を聴いている。
「信じたくはないだろうが疑いを晴らすためにも直接聴いてみようか」
「商会に行かれるのですか?」
「そうだな。カイン、少し用を頼まれてくれるか?」
「はいにゃ~、何でも言ってにゃ!」
俺はカインに耳打ちすると、手荷物をまとめて村の中心地へと歩いて行った。
「商会で話を聴く。このじいさんに使った毒についてもだ」
俺とルシル、シルヴィアは村の様子を見ながら暗い路地を進んでいく。
狭い村だ。少し行くともう目の前に商会の建物が見えてくる。
「おいあんた、畑造りは順調かい」
商会の門番をしている男が俺たちを引き留める。
「会長さんに会いたいんだが」
「おやあそれは残念だ、会長は今忙しくってね。畑ができたら報告に来てくれってさ」
「畑の件ではないのだ」
「じゃああんたに用はないよ。今日の所は帰ってくれねえですかい、もう夜も更けたんでね」
門番の男は素っ気なく俺たちをあしらう。
俺たちを帰らせようと手をひらひらとさせるが、俺がその手をつかんで止める。
「そうもいかないんだ。急いで聴きたい事があってね、一晩たりとも待ってはいられないのだよ」
俺は門番を放り投げると門番は井戸のそばまで飛んで行った。
ドアノブを回すと鍵がかかっている。力任せにドアノブを回し千切ると扉自体が歪んで外れた。
俺は自分で開けた扉から商会に入っていく。
「お邪魔しま~す」
ルシルが声を潜めて扉をくぐる。シルヴィアもその後に続く。
「おい、エッチョゴさん! ちょっとあんたに聴きたい事があるんだが、いるかいエッチョゴさん!」
俺は広い廊下で声を張り上げた。
「はてさてそのように騒がなくとも私はおりますよシルヴィアの護衛さん」
落ち着いた様子で二階からの階段を降りてくるのは、現会長のエッチョゴだった。
ナイトガウンは毛足の長い動物の毛皮を贅沢にあしらった物で、冷える砂漠の夜にはうってつけなのだろうが。
「村は貧しいのにいい物を着ているではないか」
「砂漠の豪商ともなれば着る物にも気を配るものですよ。高価な品々を取り引きする商人として、衣装もまた商売道具なのですよ」
「なるほど一理ある。だがどう見ても肥え太っているのはお前だけのように見えるが。この村でたった一人、お前だけが」
エッチョゴの口角が右側だけ上がる。
「そんな事はありませんよ。私の商会に所属する者たちはそれぞれ稼ぎを自分の楽しみのために使っていますからね。私はほら、美術品や服にこだわりが強いだけですよ。ハッハッハ」
「それと毒の扱いも、かな」
エッチョゴの不自然に上がった口角が微妙に引きつった。
【後書きコーナー】
2019/02/19 塩シリーズの各話タイトルを改修しました。
塩だけにしょっぱかった内容だったかも。