女の子の一人歩きは危険です
女の子を藪から引きずり出すと、水筒の水を少しだけ飲ませて様子を見る。喉が動いているから飲み込んではいるのだろうが目を覚まそうとはしない。
「ルシル、どうだろうか」
「うーん、心臓は動いているし呼吸もしているから大丈夫だと思うけど、水を口に含ませているけど意識的に飲んでいる感じはしないね」
「気を失っているだけならまだいいんだが」
「一応簡易的な治癒はしておくね」
「ああ、頼む。怪我らしい怪我はないかな」
「どうかなあ。血は出ていないみたいだけど」
ルシルの言葉に反応してセシリアが女の子を抱え上げてくれたお陰で、背中や後頭部に傷がないことを確認できた。
「後ろも大丈夫そうだね」
「みたいだな。それじゃあ寝かせるとして……川原の砂利じゃあ痛いだろう」
俺は自分の羽織っていたマントを外して大きめな岩の上に敷く。セシリアが女の子をその上に置いてくれて、転げ落ちないように支えてくれた。
「ゼロ、思ったんだけど」
ルシルが俺を見る。多分俺の感じているものと同じなのだろう。心配そうな顔だ。
「ああ、俺も違和感を覚えた。この娘、普通じゃないな」
「だよね」
俺たちの会話にセシリアが疑問を持ったのだろう。
「そりゃあこんな森の中に女の子が一人倒れていたなんて不自然だと思うけど」
「それもあるが、セシリア。女の子というのも異常だが、村娘の格好をしているというのもおかしいんだよ」
「どうして? よくある服でしょ」
セシリアが言うように、ごくごく当たり前の麻でできている服に大きめの前掛け。家事仕事をする時の格好としてはおかしくない。
「ここがどこか、という事を考えなければな」
「ここ……あ!」
セシリアも理解できたようだ。
「そう、ここは森の中。近くの村だって歩いて二日はかかる。それをこんな軽装で、ちょっと夕食用に木の実を拾いに来たっていうくらいの格好はおかしいよな」
「確かに……婿殿の言う通りだよ」
「村娘がこんな所に一人でいる理由としたら……」
岩に寝かせた女の子から小さなうめき声が聞こえた。
「うう……」
「ゼロ、この子意識が戻りそうだよ。治癒はしておいたから」
「ありがとうルシル」
俺は女の子の側に行く。まだ幼さを残した顔立ちで、赤みのかかった髪は無造作に束ねられている。
「あ……」
女の子はゆっくりと目を開けて俺たちの顔を見た。
「大丈夫か?」
「あ、ああっ! ごめんなさいごめんなさい! もう逃げないから!!」
女の子は身体を震わせて膝を抱えるように丸くなる。
「危ないっ、岩から落ちたら痛いだろう」
セシリアが女の子の身体を支えた。
言葉はがさつだが女性らしい体つきをしているセシリアだ。優しく抱きしめている状態になればその柔らかさや女性特有の匂いで女の子も落ち着きを取り戻す。
「大丈夫、大丈夫だ。怖い目に遭ったのだろう、もう大丈夫だからな」
セシリアが女の子の頭を優しくなでてあげる。
女の子は肩の力を抜いてその身をセシリアに預けていた。
「ゼロ、やっぱりこの子」
「ああ……連れてこられた、さらわれたようだな」
誘拐か奴隷か、少なくとも真っ当な手段でこんな森の中に連れてきた訳ではなさそうだ。