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ピクニック気分

 草原に座る。吹き抜ける風が心地いい。


「こんな所にいたんだ」


 背後からルシルの声が聞こえる。

 肩越しに見上げると、青空の広がる中にルシルの顔が見えた。


「ずっと忙しかったからな」

「落ち着きたかった?」

「まあな」


 ルシルは俺の隣に座って、手にしたかごの蓋を開ける。


「お昼ご飯持ってきたよ」


 かごの中には焼きたてのパン。パンはハンバーグを挟んだ物で、手軽に食べられるようになっていた。

 それにチーズと果物が付け合わせとして小分けにされている。


「こんな陽気の中でのんびりするのなんて、いつぶりだろうな」

「そうね……まあ、軽く千年ぶりくらい?」

「ははっ、そうかもなあ」


 俺はルシルからパンを受け取ってかじりつく。

 小麦の強い香りが鼻に広がる。パンとパンに挟まれた肉のパテが空腹な俺の食欲を誘う。


「うまいな」

「でしょ? 私が焼いたんだよ」

「へぇ」


 得意気に俺の顔を覗き込むルシル。


「これなら毎日でも作ってもらいたいよ」

「そう?」


 ルシルがそう答えた時、俺の口の中でガリっとなにか固い物が。


「どうしたの?」

「これ……」


 俺が口から出したのは、小動物の骨だった。


「これ、なんの脚だ?」

「草原ネズミよ。この辺りで捕れる栄養価の高い食材なの」

「いや、ちょっとなあ……」

「ゼロはネズミ苦手だった?」

「そうじゃなくて、骨……」

「ああそっちかー。ごめんごめん、ぶつ切りにして混ぜたら美味しいかと思って」


 魔王として育てられたルシルだからこの辺りの感覚は俺とは違うのかもしれないが、俺はそんなに骨をバリボリ食う程頑丈な歯は持っていないからな。


「食べにくかったら、骨取ってね」

「う、うん……」


 俺は特に逆らわず、パンの中に混じっているネズミの骨を取り除いて食べた。


「あー!」


 少し離れた所からセシリアの声が聞こえる。


「こんな所にいたのか婿殿! 今日は俺と狩りに行く約束だったじゃないか!」


 颯爽と現れたのは狩り用の弓矢を装備したセシリアだった。


「ちょっとセシリア、今日は私とお散歩するはずでしょ!?」

「いいや、婿殿は俺と狩りをする事になっているんだ!」


 ルシルとセシリアが互いの主張を言い合っている。


「まあまあ二人とも、少しは落ち着こうか」

「ゼロ!」

「婿殿!」


 俺が間に入ろうとすると、二人ににらまれてしまう。


「そうだ、こうしよう。俺はこれから森に行って狩りをする。狩りをしながら森を散策しよう。散歩も兼ねて、な? どうだろうか」


 俺はパンを口に頬張り、中に入っているネズミの骨ごと噛み砕いて飲み込む。


「ゼロがそこまで言うなら……」

「まあ、婿殿に賛同しよう」


 二人は矛を収めてくれたようだ。

 俺を挟んで右側にルシル、左側にセシリアとして、森に向かう。


「ルシルちゃんは狩りなんて難しいだろう? 捕まえられるのは罠にかけたネズミくらいで」

「そうかしら? 私は大型の動物だって仕留められるけど。人間とかもね」

「おやまあそうかい。それは頼もしいねえ」


 二人が火花を散らす間にいて、俺は胃がチクチクと痛くなるような気がした。


「よし、それなら誰が一番大きな獲物を仕留められるか勝負しよう! な!?」


 俺の提案に二人の目の色が変わる。


「いいわ、やってやるから!」

「望む所だ!!」


 もしかして俺はとんでもない事を口走ってしまったのか。

 少し怖くなりながらも、森の中へと分け入っていった。

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