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勇者育成計画

 ガウスは既に終わっている、そう俺たちに言い放った。

 放心状態にあるガウスはあぐらを組んで座り、上を向いた視線の先にはなにも映していない。ただただ虚空を見つめるだけだ。


「それでもアタクシは、こっちの世界でやるだけの事はやりきった、って言えるかな」


 ぼんやりとした顔でゆるんだ口元からよだれが垂れていた。


「ゼロ、セシリアたちを引きずり出したよ!」


 ルシルがドラゴンの肉塊からセシリアとウィブを解放してくれたのだ。


「大丈夫だったか?」

「う、うん。少し削り過ぎちゃった所は治癒しておいたから」

「お、おう……」


 背中や腰をさすりながらセシリアが寄ってくる。

 その後ろではウィブも翼を広げて自分の身体を眺めていた。


「心配いらないよ婿殿、ルシルちゃんにきちん(・・・)と治してもらったからさ」

「お、おう……」

「ウィブなんて破られた翼まで治してもらってさ、よかったんじゃないかな、うん」

「お、おう……なによりだ」


 セシリアは腕をグルグルと回しながら調子を確かめている。


「それで婿殿、こいつの話はだいたい聞いたけど、どうするね?」

「どうするって、処遇をか?」


 セシリアは大きくうなずく。

 こういう時、こいつの判断は的確で冷静だ。


「ははっ! アタクシの処遇なんて悩む事でもないでしょ!?」


 急にあっけらかんとした様子でガウスが話し出す。


「いいかい勇者。お前らは所詮造られた存在! アタクシはスキルツリーの選択を誤ったかもしれないけど、これからもっと強く、凶悪な連中がやってくるよ!」

「どういう事だよ。バイラマはもう誰もやってこないって言っていたぞ!」

「ククク……そんなはずがないでしょうよ。言にこうやってアタクシがやってきているのだから!」


 ガウスは腹を抱えて大笑いしながら、その目から涙があふれていた。


「マスターはもう来ないでしょう。ルート権限ももう使えない。使える人がいない。でもね、世界は存在する!」


 泣きながら叫ぶガウス。

 それは自分の未来が見えている者の悟りにも思える。


「アタクシみたいにプレイヤーをコンバートする事はできる! こうやって、この世界に出入りする事が!」

「プレイヤー……」

「そう! プレイヤー! そしてお前らレイドボスを単独で倒せないなら、パーティーを組んででも倒しに来る奴らがきっといる!!」


 俺はガウスの肩をつかんで揺すった。ガウスの首は俺の動きに合わせてガクガクと揺れる。


「これからも襲ってくるってどういう事だ! お前たちの世界に俺たちがいったい何をしたって言うんだ!」

「勇者よ、お前らの存在自体がアタクシたちの標的、倒すべき目標なのよ」

「倒すべき、だと……」

「そう、この世界を創ったバイラマ、オウル。彼らは世界を構築し、野に放った」


 俺が倒したバイラマ、そして俺のオヤジのオウル。


「あまたのワールドが生まれて消えたが、この世界はマスターが不在となった今でもまだ存続している」

「それは前にバイラマから聞いた事がある。だが、それがなんだというのだ」

「それが? なんだ?」


 とぼけた顔をしてガウスが俺の顔を覗き込む。


「アタクシたちが楽しむため、歯応えのある敵キャラクターを造る必要があったのよ。それがお前ら。ワールドの強力なレイドボスに仕立て上げるため、勇者を生み出し、魔王を造り、勇者に魔王を討伐させた!」


 ガウスが俺とルシルを交互に指さす。


「そうして作り上げた存在が、お前……勇者ゼロと言う訳だよ!!」


 ガウスの言葉に俺はなにも言い返せなかった。


「お前は造られた存在、アタクシたちの遊興のためにね!」


 雷に打たれたような衝撃が俺を襲う。

 自分が自分でないかのような、背筋を襲う悪寒。


「でも、歯応えがありすぎてアタクシは歯が立たなかったけどね」


 ガウスの身体がサラサラと粉のようになって砕けていく。


「このワールドは解放されている。誰でも自由に遊びに来る事ができる。入り口のサーバーさえ判ってしまえば、ね」


 粉になりながらガウスが薄ら寒い笑みで俺たちを見ていた。


「最後の最後でアタクシの人生、こんな形で終わっちゃうけどさ、まあ、勝てない相手と初めて戦った……悪くなかった」


 ガウスがボロボロになりながらも、想いを口にする。


「せいぜい……頑張りなさいよね……勇者ゼロ……」


 ガウスの言葉はその身体と同じように、風に乗って消えていった。

 話す内容は俺に、俺たちに到底信じられるものではなかったが、俺たちの理解できない所でのつじつまは合っているようにも思える。

 不思議と納得がいく話だったかもしれない。


「消えちゃった……よね?」


 ルシルが俺の腕に触れる。


「ああ、そうあってもらいたいがな」


 俺もルシルの手にそっと触れた。


「奴が好き勝手言っていた事はどこまでが真実なのか、俺には判らない」


 俺はルシルの目を真剣に見る。


「でもな、俺たちはこうやって生きている。一緒にいる」

「うん」

「それが全てで、それでいいんじゃないか?」


 ルシルは返事をせず、ただうなずいて俺の肩にもたれかかった。

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