世界を掌握するための布石
どれだけ大きい身体を持っていても、どこかにそれを束ねる場所は存在する。個体における心臓のように、この巨大なドラゴンにも、それを支える中心核のような物があるはずだ。
「やめっ、やめてくれっ……」
既に声だけとなった抵抗は力なく、俺たちを制止する事はできない。
俺たちは磁力の影響を受けない攻撃でガウスの身体を切り刻んでいった。
「山程あった身体もだいぶ小さくなってきたな」
切り離したドラゴンの肉体は灰となって消えてしまう。流石に召喚されたドラゴンたちの屈強な身体とはいえ、アンデッド化された上に部品として使われたのだ。酷使した肉片は、本体から切り離されてしまえば、もはやこの世界に留まっている事すらできなくなっていたのだ。
「ガウス、お前の野望も終わりだ。元の世界があるのなら、そちらに戻って二度と俺たちのいる世界へと来ない事だな」
「ぐ……勇者、お前は確かにこの世界を護る存在。アタクシの娯楽がこの世界の覇権を握る事なら、まだ倒れる訳にはいかないのよね」
「楽しみのために世界を滅ぼそうとするのか。なんという奴だ」
「クフフ……。所詮世界は神々の遊戯場。ゲームの盤面でしかないのだよ。そしてお前たちはその駒に過ぎない存在」
「よくある陳腐な神話だな」
「確かに陳腐で滑稽。だけどそれが真実。世の中なんていうのは得てしてそんな物よ」
会話の間も俺たちはドラゴンの肉体を削りまくっていく。
残ったのはドラゴンの頭の一部とそこにくっついているガウスの身体だけ。
「長い話はそろそろ終わりだ。お前の身体ももうじき砕け散る。折角大量のドラゴンを使ってアンデッドにしてまで造った身体だろうが、それすらも既にほとんど消え去った」
「そうだね、アタクシにもう課金できる財力はないよ。今回は君たちの勝ち、そう言ってもいいだろうけど……」
「カキンというのはよく判らないが、覚悟は決めた訳だな。うん、潔さは認めよう」
ガウスは横に首を振る。
「いいや、起死回生の秘策というのはね、最後の最後まで隠しているからこそ効果があるって物なんだよ」
「なんだと」
「今回のアバターはアタクシにしても一世一代の資金投入をした個体なんだよね。ここでキャラステータスを消去させる訳にはいかないんだよ」
「そんなお前の都合なんぞ知らん! 覚悟しろっ!」
俺はドラゴンの頭部をガウスの身体から切り離そうとする。
「いいのかな、勇者よ」
「な、なにっ……」
俺の手が止まった。ドラゴンの頭に組み込まれた肉体、そこにセシリアとウィブの身体が埋め込まれている。
意識も無くドラゴンに取り込まれた状態のセシリアたち。
「誘引結着でね、捕まえておいたのだよ。アタクシの肉体を滅ぼすという事は、こいつらの身体も失われるという事なんだよね! ハーッハッハッハ!」
ガウスの高笑いが鼻につく。
「だけど流石にアタクシも疲れた。さあ、ここは一旦手を引いてくれるかな? そうすれば互いにメリットはあるだろう」
「くっ、勝手な事を……」
俺の歯ぎしりが聞こえてしまったのだろうか、ガウスは勝ち誇った顔で俺を見ていた。