塩の裏の謀略が見える
墓場脇の寂れた小屋ですすり泣く声。
「どうした、入るぞ」
俺は勇者らしく他人の家だろうが何だろうがずけずけと入っていく。
家具や飾り気の無い小屋の端にはぼろぼろの布を布団代わりにしている老人と、それに覆い被さるようにしているセイラがいた。
泣きながらセイラがこちらを向いて俺たちを見る。
「お前たち、お前たちがやったのか……!」
セイラは立ち上がると近くにあった巨人の骨のような物をつかんで殴りかかってきた。
「セイラちゃん!」
シルヴィアが叫ぶ。
俺はセイラの腕をつかみ強制的に攻撃を止めさせる。
「話が見えない。いったい何があった」
「お前たちが、お前たちが来てからじっちゃんが……ううっ……」
「バイヤルさん……」
シルヴィアが横たわっている老人のそばで膝をつく。
「酷い、どうしてこんな……」
シルヴィアが布をめくると、ぼろぼろの服を着た老人の、それもあちらこちらに切り傷や打撲の後がある痛ましい姿があった。
「バイヤルさん、バイヤルさん!」
「シルヴィアさんどいて!」
ルシルがシルヴィアを押しのけてバイヤルの様子を見る。
「ゼロ、まだ息がある! 重篤治癒をお願い!」
「任せろ!」
俺はセイラの手を離すとバイヤルの隣に座る。
「かすかだが息はある。いくぞ、重篤治癒っ!」
俺の両手から温かい光が出て老人を包む。時間が経つにつれてバイヤルの顔色がよくなる。
「あ、あんたら……」
「セイラちゃん、ここはゼロさんに任せて」
シルヴィアがセイラの肩を抱く。セイラの手から落ちた骨が軽い音を立てた。
「じっちゃんは、じっちゃんは大丈夫なの……?」
「大丈夫、と言いたいところだが。傷は治っているはずなんだ……」
重篤治癒をかけたから肉体的損傷は回復している。実際切り傷や痣も綺麗に無くなっているのだ。
「でもゼロ、意識が戻ってこないしただ寝ているようにも見えないよ」
ルシルの言う通りだ。
「これは負傷とは別の原因がありそうだが」
俺がいくつか要因を考えていると、入り口から男たちの声がした。
「なんだこんなところで、新しく来た隊商の姉ちゃんがいたぞ」
「本当だ、その護衛もいるみたいだな。おいお前らここで何してやがんだ」
人に物を尋ねる態度ではない男たちの声。それを聴いて俺の神経がざわつく。
「バイヤルさんから恩顧を受けました昔を想いご挨拶にと伺いましたところ、お休みのご様子でしたので」
シルヴィアはそんな男たちにも礼儀正しく応える。
「バイヤルさんだあ? このジジイは村の邪魔者なんだよ、そんな奴の世話をしているなんてのは村から追い出されても仕方がないっていうのにさ!」
男の一人が積んであった薪を蹴飛ばす。
「やめて! それは村の……」
「薪なんてこの村じゃあ高級品だって言うのにこんなに贅沢しやがって」
もう一人の男が薪を一本手にして水瓶や穀物の壺を叩き割る。
少ししかなかった水も流れ出し蓄えていた穀物が濡れて砂にまみれた。
「やめてよ、やめて……」
あの勢いがどこかに行ったようなセイラのすすり泣く声。
「なんてことをするんだ!」
俺は立ち上がると男たちの所へ詰め寄る。
「おうおう護衛さんよ、あんたはそこの綺麗な商人の姉ちゃんを守っていればいいんだ。こんな枯れたジジイのために命を散らす事もねえだろ?」
そう言いながらつばを俺に吐きかける。
俺は瞬間的にそれを避け、代わりに男のあごへ拳を叩き込む。
「礼儀のなっていない言葉と唾液を吐く口はお仕置きをしてやらなければな!」
欠けた歯と一緒に吹っ飛んだ男は小屋の外まで転がり出ていった。