壊れていくから更に盛る
ガウスの口から血があふれ出す。
「少女の身体……せっかく造ったのに……ごふっ」
「痛いだろう? これが肉体の痛みだぞ、ガウス」
「はっ、この世界に来て痛みを感じるとはね……。すごい物を創ったな、バイラマたちは……」
呆けたように上を見るガウス。その喉からは笛のような音が漏れていた。
「思ったよりもすごかったよ」
「この世界が、か?」
ガウスは首を横に振る。
「ここもすごいけど、君たちもすごかった。まさかプレイヤーであるアタクシにここまでダメージを負わせるのだから」
「そうか。なら覚悟を決めて剣の錆になれ」
「ふふふっ……」
ガウスが不敵な笑みを浮かべた。それはまだ諦めていない顔だ。
「まだやるつもりか」
「そうだね、これは楽しまなくてはもったいない!」
「だが、お前の弱点は判ったぞ。これ以上お前の優位にはならない」
俺は荷物に紛れ込んでいた小石を投げる。
その小石はガウスの肩に当たって地面に落ちた。
「お前の磁力とやらを突破する術は見つけた。魔力で作った物じゃないから解呪も使えないぞ」
「いいね、いいねえ。そうでなくっちゃ。いいよ、解るよ~。アタクシをここまで楽しませてくれるのだからね!」
めげないガウスは両手を広げて大きく深呼吸をする。
「ああ、そうだねえ。アンデッド属性にすればよかった。足せばよかったよ。そうすればこんなに手間取る事はなかったのにねえ」
うっとりとしたような顔で俺たちを見ていたガウスが、いきなり両手を地面に向けた。
「来たれ来たれり白の澱、淀み淀んで我に集え……」
詠唱を始めたガウス。周囲に今までとは違う力を感じる。
「これは……少しまずいかもな」
俺は剣の鞘を腰から抜く。木でできた鞘なら金属は含まない。太い木の棒と同じように殴れば。
だが、俺の振り下ろした剣の鞘を、ガウスが左手一本で受け止めた。
「まあ少し待ちなさいよ。詠唱をしている間は攻撃しないのがお約束、でしょう?」
にやりと笑うガウス。すごい力に押さえられて鞘がガウスの手から離れない。
「さあ、集まるのです! 究極千頭白龍っ!!」
ガウスが白い光に包まれる。
周りに感じていた力がガウスに送られてきた。
「いや、これは力じゃない……ドラゴンの死体!?」
寄せ集められた千体の死したるドラゴン。それが山のようになってガウスの所へ折り重なっていく。
「ただ山を作っているだけじゃないぞ。どんどん小さく、まとまっていく……」
光の中に影が見えた。
その影がだんだんと色濃くなっていき、大きなドラゴンの形に整えられていく。
「ほう。大きくなるかと思えば、少しアタクシの身体が変化しただけだな」
超巨大な白龍が目の前に、それこそ山のようにそびえ立っていて、さっきまでいた少女の上半身がドラゴンの額部分からちょこんと突き出していた。
「さすがはドラゴン千頭。凝縮させてもここまで大きくなるとはね。アタクシの想像以上だったよ、クックック……」
遙か高みから聞こえる声は、ガウスの勝利宣言にも思える程だ。
「自信があるっていうのはいいねえ。たいしたものだ」
「それはそれは。お褒めにあずかり光栄だよ、勇者くん!」
超巨大龍の太い足が振り上げられる。
足の裏はそれだけで貴族の館の敷地程もあるくらい大きく、広く、分厚かった。
「さあ、踏み潰してあげるよ、プチッと、蟻をすりつぶすかのようにね!」
俺たちの頭上に、奴の大きな、大きすぎる足が襲ってくる。
どうやら覚悟を決めるのは俺たちのようだった。