近寄りがたい存在
俺とルシルの身体がつっくいて離れない。俺たちの動きを制限させようとするガウスの磁力でこうなった。ルシルは俺の腰に手を当てている状態でそのまま貼り付いている。
「ルシルを傷付けてまで引き剥がそうとはしない、俺だったらそうすると思ったんだろう!」
「ハッハッハ! その通りだよ勇者くん! どうだい、仲のよい少女に貼り付かれている気持ちは!? あーっはっはっは!」
「悪くはないな。だが、これしきの事」
俺は爆炎を放ちながら駆け出す。当然俺の炎はガウスの解呪で奴にダメージを与えられない。それでも発生した煙は視界をふさぐ。
「俺の動きが鈍くなるから、戦いでくみしやすいと考えたんだろう!!」
俺は煙の中を突進する。
「クックック、理解力があって助かるよ勇者くん。どれだけ君が超人的なステータスだったとしても、異常値ですらはるかに超えるパラメーターを持っていたとしても、アタクシに勝てない理由はそこなんだよね!」
ガウスの声が正面から聞こえた。俺はルシルを小脇に抱えた状態から背負い込む体勢に変える。ルシルとしても俺におぶさる形の方がしがみつきやすいし、これなら俺の行動は阻害されない。
「そうかよっ!!」
俺はあえて大きな声で応え、そこから煙に紛れて左方向へと移動する。ガウスの声がした辺りを軸に、ぐるりと回り込むつもりだ。
俺が叫んだ後はあえて口をつぐんでいる。ガウスが気付かなければ、俺が正面から突進してくるものと思うだろう。
「ルシル、煙幕を抜けるぞ」
「うん」
俺はルシルにだけ聞こえるように小さな声で知らせる。それと同時に目の前から煙が消え視界が明るくなった。
正面に見えるのはガウス。俺と正対しないで、俺がさっき叫んだ方向をにらんで立っていた。
「取ったっ!!」
俺は抜き身の剣をガウスに叩き付ける。
「なっ!?」
俺の剣はガウスへ届く前に、ゼリー状に思えるくらい弾力のある空間で弾かれてしまう。
「おや、危ない危ない。アタクシの磁力がお前らを近付けさせないようにしているんだよ、バーカ!」
「くそっ!」
「悔しがっても剣は届かないよ、勇者くん! あーっはっはっは!」
ガウスが俺をあざ笑った。
確かに俺の叩き付ける剣は見えない力にさえぎられて、ガウスの身体に届かない。俺は何度も右手に握った剣でガウスを斬りつけようとするが、それは一度も通らなかった。
「……ルシル」
「うん」
俺が背中に向けて差し出した手に、小さい物が渡される。
手触りは石か。俺の指より少し大きい程度の釘みたいな物だ。
「あっはっは! ここまで効果的だとは思わなかったよ! いやあ愉快愉快!!」
大声で笑うガウス。俺がどんな方向から剣を斬りつけても、奴の身体には届かない。
が。
「そう思ったからな」
俺はルシルを信じて受け取った物をガウスに向かって突きつける。
「なにぃ!?」
ガウスは両手を前に出して俺の突き出された左手を防ごうとした。
「それくらい!!」
俺の手にしていた小さい石の釘は、ガウスの両手を貫いてそのまま奴の右胸に突き刺さる。
「な、なぜ……」
口から血を噴き出しながらガウスは右胸を見た。そこにはガウスの胸に突き刺さった石の釘が。
「この石、アタクシの磁力が効かない……」
「らしいな。ルシルが知っていた」
俺が肩越しにルシルを見る。
「バイラマの知識が私に教えてくれたのよ」
「だ、そうだ」
ルシルの身体に残る元の宿主バイラマの記憶が俺たちの知らない情報をルシルにもたらしてくれた。奇しくも同郷のガウスに仇をなす結果になったのだが。
「ぐぐっ……ぐふっ……」
血の泡を噴きながらガウスが俺をにらんでいた。