顕在化する磁力
物をくっつけたり引き離したりする力。俺たちはその未知なる効果に戸惑っていた。
「ゼロ、どういう事なのこれ……こっちの攻撃は逸らされちゃうし、あっちの攻撃はいくらこっちが避けても当てられちゃう」
「敵の攻撃は手刀だけだが、その指先に目が付いている見たいに正確だからな」
セシリアは背中を斜めに切られている。これは下手をすれば背骨にまで達している傷かもしれない。
「早く手当てをしなくちゃ……」
ウィブも翼が使えなければ地を這う大きな蜥蜴と同じだ。まだワイバーンらしく牙と太い尾で攻撃はできるものの、あの分厚い鱗もガウスの手刀で切り裂かれてしまっていた。
「まさか奴が肉体を得てこんなに強くなるとは思わなかったが……そう考えてみれば俺たちも同じ、思念体の頃と比べれば自分の肉体が存在している事で強さが段違いに変わってくる」
「受肉の力って事ね」
「そうだ。ガウスはこれからが本領発揮という訳だな」
俺たちがそれぞれ傷を受けているというのに、ガウスは無傷だ。見た目はつぎはぎだが、くっついてからは俺たちの有効打は与えられていない。
「ごめんねゼロ、私がずっとくっついちゃっているから」
ルシルは俺にしがみつくような格好になっている。腕は俺の事を抱きしめている訳ではないのに、身体が離れないのだ。
「いいさ、これもガウスの力。ルシルのせいじゃないから」
「うん……」
ガウスに攻撃を当てられな理由としてはこれもある。ルシルが俺にくっついている状態で、俺の動きが制限されているから。剣を振るうにもルシルの身体が俺の可動域をせばめているのだ。
「ハーッハッハッハ! よもやこれ程効果があるとは思ってもみなかったよ!」
高笑いするガウス。一方的な戦いに機嫌もよくなっているのだろう。
あれだけ苦戦していた状況から逆転した訳だから、その気持ちも仕方がないのかもしれない。
「チートと呼ばれようがなにしようが、新しいシステムを導入して正解だったよ!」
「システム、だと?」
「どうせお前らに言った所で理解できないだろうけどさ、バイラマたちが造った世界は出来がよかったけど、そこにアタクシがちょっとしたエッセンスを加えてやったのさ! これで彩りも鮮やかになって味に深みも増したってもんでしょ!?」
裸のガウスが大きな胸を揺らして俺たちを見下す。
「世界には存在していたけどワールドを構成している要素なだけだった。それをアタクシが能力として顕在化させたのよ!」
「なにを……いったい……」
「ふふん」
ガウスは人差し指を立てて横に振る。
「磁力」
磁力?
なんだそれは。
「目に見えない、でもすごく強い力なんだけどね。くっついたり離れたり、力の帯になったりとかさ。まあ判らないよね」
得意気に話をするガウス。
「でもこうして能力に昇華させる事ができたのはアタクシの力って訳」
「なるほど……ワイバーンの儂には理解できん。じゃがのう、これしきでは……やられんのう」
ウィブがゆっくりと、だが力強く立ち上がり尻尾を大きく横に振る。
狙いはガウス。
「誘引結着!」
ガウスが大きく手を横に動かすと、それに合わせてセシリアの身体が浮かび上がった。
セシリアの顔が苦痛に歪む。
「さあ、行きなさいっ!!」
セシリアが横薙ぎに振られているウィブの尻尾に激突する。
「あぁーーっ!! うっ……」
「しまっ!」
ウィブが尻尾を止めようとしなければセシリアの身体は真っ二つになっていたかもしれない。
「セシリアっ!」
俺の声にもセシリアは反応できなかった。
「炎よ、焼き尽くせっ!!」
ルシルが俺にくっつきながら杖から炎を噴き出させる。
「解呪! 魔力攻撃は無力だと何度言ったら理解してもらえるのかな?」
「くっ……」
奴には魔力を使った攻撃は効かない。
「だが!」
解呪を使う動作で隙は生まれる。
俺はその一瞬を生かす。
「行くぞルシル!」
「うん!」