深い穴ならよかったのに
スナップとやらが矢を投げてくる。弓で射るのではなく右手でつまんだ矢を俺たちに向かって投げてくるのだ。
「ほらほら当たると危ないですよう!」
飛んでくる矢は俺が弾き落とすが、その弾かれた矢が地面の雲に突き刺さるたびに雲が大爆発を起こす。
「手で投げているのにこの威力。すごいなお前」
「だから申し上げましたのに、当たると危ないと」
「確かにまともに受けたら大変そうだ。だが」
俺はいくつも飛んでくる矢を全て叩き落とした。
「こうしてしまえば当たらないな」
「ほう、それはなかなか、やりますなあ!」
両手を挙げて驚いた顔をするスナップ。
だがその目は笑っている。
「では、これならどうです!?」
スナップは指の間に矢を挟む。両手分八本の矢だ。
「一度にこれだけの矢を、さばききれますかな!」
両手を交差させるようにしてスナップが矢を放つ。
だがその矢は俺へと向かわず、あらぬ方向へと飛んで行ってしまう。
「なんだ、数は増えても器用さまでは備わっていないようだな」
「そうお思いですか? それっ!!」
スナップが手をヒラヒラと動かすと、遠くに飛んでいた矢が俺に向かって軌道を変えた。
「全方位! この矢をかわせますかな!?」
「俺に向かっているのであれば簡単だ」
俺は身体を移動させて矢の進行方向からずれる。
「それくらい読めないとでも?」
スナップが手を動かすと、俺の移動先に矢が方向を変えた。
「ほっと、やっ!」
俺は軽く跳びはねて場所を変えると、矢もその後を付いてくる。
「矢よりも速く動くなんて……でもこの矢はどこまでも追いかけていきますからね!」
「そうだといいな。Sランクスキル発動、超加速走駆! 俺の速さに追いつけるかな!?」
俺が飛んでくる矢をぎりぎりで避けた。矢は俺がいた場所を通り過ぎてまた方向を変えて向かってくる。
「どこまでも、どこまでも追っていきますからね!」
「いや、それはできないな」
俺は一呼吸入れてもう一度スキルを、超加速走駆を発動させた。
「もう一度っ!」
「それはない」
俺の移動した空間を八本の矢が通り過ぎ、そして壁にぶつかって弾ける。
「なっ、白の巨塔!! 逃げ回っていたのは矢を塔にぶつけるためだったとは!!」
「ご明察、その通りだよ。まんまと引っかかってくれたが……ふむ、これくらいでは外壁が少し削れたくらいか」
「と、当然だ……この塔はガウス様がプレイヤー権限で構築されたユーザーアイテム。そう簡単には……」
俺は剣を構えて力を込めた。
「SSSランクスキル発動、重爆斬! 壁を突き崩し塔を破壊しろっ!!」
俺の放った剣撃が塔に当たって爆発し、壁を一気に粉砕する。
破壊によって生じた亀裂が塔の上方へと伝わっていく。
「ば、馬鹿なっ! そんな非常識なっ!」
さっきとは違ってスナップは本当に驚いているようだった。
塔のあちこちにヒビが入り、パラパラと剥がれた壁が降ってくる。
「あ、一本借りるぞ」
俺は棒立ちになっているスナップが背負っている矢筒から矢を一本取り出し、塔へ投げつけた。
俺の放った矢が塔にぶつかると、それまで倒れずにこらえていた塔が一気に崩れ落ちていく。
「これで上の階へ行く必要もなくなったな」
俺たちの前には塔だった瓦礫が山になっていた。