塩の娘が大騒ぎ
一人の女の子が俺の事を指さす。
「エッチョゴの手下なんでしょあんた! 村の人たちをそそのかしていったい何してくれるのよ! これから暑い季節になっていくんだから塩をどんどん採らないといけないって言う時に、こんな泥遊びで鉱山の男たちを連れて行かないでよ!」
女の子が俺に向かってわめき散らす。
「なんだ威勢のいいのが来たな」
「あら」
シルヴィアが驚きと懐かしさを含めた顔でその女の子を見ると、駆けよって飛びついた。
「セイラちゃん、久し振りだね!」
抱きつかれて戸惑いながらも、シルヴィアにセイラと呼ばれた女の子はなすがままになっている。
「会長さん、ううん、バイヤルのおじいちゃんは元気?」
シルヴィアがゆっくりと身体を離してセイラの顔を見た。
「なっなっ、何よ! あんたなんか勝手にいなくなっちゃうし、いったい今までどこ行ってたのよ!」
顔を真っ赤にしてセイラがわめく。それを困ったような嬉しいような顔でシルヴィアが見ていた。
「ごめんねセイラちゃん。私もあの時は丁度隊商が通りかかって、それについて行っちゃったものだから……。挨拶もちゃんとできなかったの、本当にごめんなさい」
「そ、そそ、そんなの今更何よ! それにまた厄介ごとを持ち込んできたのね! また村を混乱させようとしているのね!」
「そんな……。セイラちゃん、私そんなつもりじゃ」
「つもりじゃなかったら何なのよ! もう知らない!」
セイラは怒りながら村の方へ帰っていく。
「そのうちあんたたちの悪事を暴いてやるんだから!」
一回だけ振り向いて、捨て台詞を吐いていった。
「やかましい奴だったが、なんなんだあれ」
「ごめんなさいねゼロさん。あの子は私がこの村にいた時に商人のイロハを教えてくれた方の孫娘なの。その頃同じくらいの歳の女の子ってあの子くらいしかいなくて、二人でよく遊んだものだったのですけど」
「仲がいいのか悪いのかよく判らないな……」
「あれはあの子の照れ隠しですから」
「こちらの作業が一区切り付いたら会いに行ってやったらどうだ」
「そうですね。エッチョゴさんの話では墓場の隣の小屋という事でしたけど」
俺は村の人たちに作業の手本を見せ次の日にやる事を伝えると、今日の作業を終わらせて解散した。
「よし、行ってこようかシルヴィア」
「いいのですかゼロさんもご一緒で。ルシルちゃんも」
「うん行こうよ」
「行こうお姉ちゃん」
「そうね、バイヤルさんお元気だったらいいのですけど」
俺たち四人は村はずれにある墓場へ向かった。
その脇にある小さくくたびれた小屋から明かりが漏れる。煉瓦造りの小屋ではあるが、所々に隙間や穴があってそれを補修できていない様だった。
「にゃにゃ、おんぼろっちいにゃ~」
「あ、しまった」
日が暮れて月の明かりが強くなってきた所でカインが猫耳娘に変身していたのだ。
「仕方ない、あんまり引っかき回すなよカイン」
「判ってるにゃ~、ちょっとだけならいいにゃ?」
「ちょっとも駄目だ」
「にゃ~ん」
残念そうにしていながらも興味のある事には目を輝かせるカイン。
「扉、開いてるにゃ」
そして小屋の中からすすり泣く声が聞こえた。