白い奴らの四天王
俺は近くでうめいていた白い羽付きを捕まえる。既に息絶えていた奴らは放っておくとして、まだ会話ができそうな軽傷の奴を一人見つけたのだ。他はもう散り散りに逃げ去っていた。
「怪我人を放置して逃げ去るとは、お前たちの部隊はなかなかにして薄情だな」
「くっ……我らはガウス様やバイラマ様の手駒。我らの命はあの方たちに比べれば取るに足らぬものよ」
「そうか、それなら俺も手加減はする必要なさそうだな」
「好きにするがいい」
俺は傷を負った白の兵士に手を近付ける。
「Nランクスキル発動、簡易治癒。これで痛みは取れただろう」
「だからといって懐柔はされんぞ」
「そんなつもりはない。だがお前たちはガウスから指示を受けているのではないか?」
「なんの事だ……」
白の兵士は俺から目を背けた。
「どうやらガウスは俺と戦いたがっているように思えた。だが今いたあいつはきっとかりそめの姿なのだろう。本体は別にいると思うのだが?」
「ふぅ……」
痛みは取れたとはいえ傷が完治している訳ではない。
怪我をしている横腹を押さえながら白の兵士は立ち上がる。
「いいだろう、ガウス様のおわす塔へ案内する」
それだけ言って、白の兵士が足を引きずりながらどこかへ行こうとした。
「ゼロ、大丈夫なの? なんだか話が上手く行きすぎて、罠なんじゃないの?」
ルシルは心配そうに俺の顔を見る。
「もちろん罠だ。いや、少し違うか。ガウスが呼んでいると言った方が合っているかもしれない」
「会いたがっているの? ゼロと?」
「多分な。ガウスはこの世界でなにかをしようとしている。そのために力を千年間溜めて地上界へと再侵攻をしようとしていた」
「でもそれをゼロが止めたんでしょう?」
「ああ。奴は俺たちの事を認めたのだろう。再侵攻するよりも戦い甲斐のある相手だと。そうでなくては困るがな」
俺たちは白一色の世界で白い兵士を見失わないよう追いかけていく。
「ガウスにしてみれば俺たちが冥界を通ってきたのと同じように、この世界で千年という時間はそれ程長くはないのかもしれない」
「バイラマとかと同じような単語を口にしていたからね、彼もまた、プレイヤーって呼ばれる人種……なのかな」
「恐らくな。厄介な連中だよ。この世界を創ったとか破壊できるとか。どれだけの力を持っているのやら……」
俺やこの世界に住む者には理解できない次元の話がきっとあるのだろう。
それこそ神でもいたとして、その神が見るような世界が。
「ただ俺たちは俺たちで、この世界の中で生きていくだけだ。それを脅かす者はたとえこの世界を創造した神であっても、世界を滅ぼさせはしない。そうしてバイラマの破壊を止めたんだからな」
「今回もそれを阻止しないとね」
「ああ、ガウスの野望も達成させはしないさ」
そうだ。この世界に生きる者として、世界の崩壊はなんとしても止めなければ。
「しゃべっている所になんだが、そろそろ着くぞ」
前を進んでいた白の兵士が振り返る。
「ん?」
俺は目をこらしてその先を見た。
白に白でよく判らなかったが、うっすらと影のような物がそびえ立っている。
「あれが塔か、ガウスがいるという」
「そうだ。貴様の全身全霊をもって、ガウス様を楽しませるのだな」
「あの……白い塔に、ガウスがいるんだな?」
「ああ、だが塔は五階建てになっており、その階にはそれぞれガウス様の最強の四天王が扉を守っている。そいつらを倒さなければガウス様には会えぬがな」
「ほう、それはなかなか、趣向を凝らしているようだ」
「せいぜい無駄なあがきを……はぐっ!」
目の前にいた白の兵士が目を見開く。
その眉間から矢が飛び出していた。後頭部から撃ち抜かれたのだ。
「何者だ!」
俺は剣を抜いて戦闘態勢を取る。ルシルたちも同じように身構えていた。
「その兵士は少しおしゃべりが過ぎましたのでね」
不敵な笑みをたたえて俺たちを見るのは右手で矢を持っている男。弓は持っていないから手で投げてこの威力という事か。
「ようこそ勇者ご一行様。アタクシはガウス四天王が一人、ダーツのスナップと申します。あなた方の命尽きるまでの短い間、どうぞお見知りおきを」
うやうやしく礼をするスナップ。
だがその顔はずっと正面を向いて俺たちを見ていた。