千年前から今日まで
俺に殴られて尻餅をついているガウスとか言う奴。ここにまた、白一色の世界に血をまき散らす奴が生まれた。
「ひょ、ひょんなぁ……」
「どうしたガウスとやら。さっきまでの威勢のよさはどこ行った?」
ガウスが一発で吹っ飛ばされた様子を見て、また周りの連中がざわつき始める。
「かっこよく出てきたわりには、すぐにやられちまったな。あ?」
「ねえゼロ、なんだか言い方があくどいよ。こっちが悪者みたいに見えちゃうじゃん」
「え、ああ。ま、別にいいだろ? こいつらにしてみれば俺たちが悪党だし、俺たち地上界の者からしてみればこいつらが悪者だからな。千年前の無差別侵略だってこいつらが始めた事だ」
「まあ、言われてみればそうだけどね」
腰を抜かしてうめいているガウスが俺の事を指さす。
「お、お前、千年前って別にお前の事じゃない……遠い先祖の話だろう? このワールドのキャラクターなら……」
「またなにか意味の判らない事を言っているが、一つ言える事は俺たちはその千年前にお前らから攻められた者だよ。お前らが天界から攻めてこなければ、平和に暮らせていた人間たちだよ」
「ほひぇっ!? だって、千年……」
「ああ、別に俺だってこんな未来に来るつもりはなかったけどな、これも成り行き、仕方がないさ」
実際に俺は冥界を通って地上界の千年という時間を越えてきた訳だし。
「ア、アタクシたちは……ようやく千年をかけてもう一度地上界へ攻め入る準備をしていたのに……。エーテルナノが溜まるのに現地年数で千年かかるのに……」
「お前にいろいろ聞けば、面白い話が聞けそうだな?」
「ひっ!」
俺がつま先でガウスの足を蹴っ飛ばす。
「そうやってアタクシたちをいじめて楽しんでいるのですね、お人が悪い……」
「なにを言っているんだこいつ。いじめるとかそういう」
「お前ではない! お前の後ろにいる方……」
「え?」
俺は思わず振り向いてしまう。
そこにはウィブの巨体とセシリア、そしてルシルがいるだけだった。
「そのお姿……バイラマさんだよね?」
ガウスの視線はルシルに注がれている。
「お前、バイラマを知っているのか? そう言えば千年前に天界から逃げてきた奴も、バイラマが天界に行っていたって話していたが」
「知っているもなにも、アタクシはバイラマさんと一緒にワールドをプレイした仲間じゃないか!」
「いや、じゃないかって言われてもなあ。なあルシル?」
ルシルもガウスの言う事には思い当たる節がなさそうだ。
「ルシル? ルシルって言ったか?」
「ああ。確かにあいつの身体はバイラマだったが、今はルシルの魂が使っている」
「そうか、バイラマさん……それとオウルさん、成功したんだ……」
「はぁ? なんでここに親父の名前が出てくるんだよ!? お前はなにを知っているんだ!」
俺はガウスの胸ぐらの鎧部分をつかんで引き起こす。
「お前は聞かされていなかったか、バイラマさんからも、オウルさんからも」
ガウスの口からとんでもない言葉が次々と飛び出した。
「いいであるな、それならばアタクシもこのかりそめの姿を捨て去ろう」
「な、なにを」
「この身体も高かったんだけどなあ、ああ、ゴホン。コンバートした本体で相手するのであるな」
ガウスは取り繕うようにして居住まいを正す。
「アタクシに会えたら世界の話をしてやるであるな」
「なっ!?」
ガウスの身体から力が抜けたと思った次の瞬間、煙のように消えていく。
「なっ! ちょっ、待てっ」
「勇者ゼロよ、アタクシを楽しませる事ができたのなら、この世界、そしてお前の謎を明かしてやるのであるな」
「な、待てコラ!」
俺の叫びも虚しく、ガウスは消えてしまった。