真っ白な世界
ほんの一瞬、空全体が光りに覆われた。あまりに強い光だったために世界が真っ白に染め上げられてしまったかのようだ。
「まぶしい……」
セシリアが目を細めている。俺も視界がチカチカする中でそうにか周りを把握しようと様子をうかがう。
「大丈夫か、なにか異常は?」
「へ、平気……。これで行けたはずだよ、ゼロ……」
視界が落ち着いてくると、周囲の風景が違う事に気付く。
「下が、一面の白い雲。さっきまで俺たちがいたのは空の中だったのに。なんにもない空にぽつんといたはずだったのに、今は雲の上……だと」
俺は羽を休めているウィブの肩越しに下を見る。
ふわふわの雲が広がっていた。
「お?」
ウィブの足下を見る。それから折りたたまれた翼を。
「飛んでない、のかウィブ?」
「お、ああ。そうだのう。いつの間にやら立っておったのう」
ウィブの答えもなんだかふわふわしたものだな。
「ルシル、ちょっとこれ持っててくれ」
俺はルシルにロープを手渡す。
「うん、いいけど……ってゼロ!」
細かい説明は無しで俺はウィブの背中から飛び降りた。ロープはルシルが持っていて、セシリアも慌ててつかんでくれた。
だが、そのロープはピンと張る事はない。
「雲の上に……乗れた」
ロープが伸びきる前に俺は着地していた。
白い雲の上だが。
「なんだこれ、ふわふわというか、ブヨブヨ? 沈まない泥の上というか、腐った木の上というか、なんだか変な感じだな」
「大丈夫なの、ゼロ!?」
「ああ、驚かせちゃって済まないな。でも大丈夫だ。この雲、歩けるぞ」
「歩ける雲……変なの……」
ルシルに言われるまでもなく、確かに変だ。変だが仕方がない。現実がそうなのだから。
「ルシル、セシリア、そこから周りになにか見えないか? 山とか建造物とか、なにか目印になるような物」
「うーん、なんにもないなあ……」
そう言ったルシルの腹が鳴る。
「あぅ」
「お。飯にするか。なにかをするにしても腹ごしらえ……って、今は何時くらいだろうな?」
「え? あれ……ゼロ」
ウィブの背に乗ったルシルが辺りをキョロキョロと見回す。
俺もその理由が解って白い世界に目をこらした。
「ねえゼロ……」
「ああ、そうだな」
俺とルシルは互いの認識を理解したが、セシリアとウィブは不思議そうな視線を俺たちに向ける。
「ど、どうしたんだいルシルちゃん、俺にも教えてくれないかい」
「セシリア、見てよ空。ううん、ここが空なのかもしれないけど、上の方を見て」
「上の方? うーん、うっすらと白い、もやがかかっているような空だけど。それにしては明るいなあ」
「明るい、そうなのよね。明るいのよ。でも別に曇っている訳でもない」
「うん? そうね明るい……けど……なあ婿殿、婿殿はどう思うんだい?」
セシリアは俺にも尋ねてきた。
「なあセシリア、今何時だ?」
「何時って、出発したのが朝だったから、今は昼か夕方くらい……でも明るいからなあ、昼くらいか?」
「晴れている。明るい。だが、空には太陽がない」
「え? あ!」
俺たちの見ている空には、太陽がなかった。
だが、世界は明るさに満ちている。作り物のような、白い光で。