空の蓋
俺たちは大きく成長したワイバーンのウィブに乗って上昇していく。
最初は普段の空気の中を飛んでいたが、大きな雲を越えた辺りから見える風景が変わってきた。
「雲が尽きると空は暗くなってくるんだな。空といってもここまで上ると別の物に思える……」
「そうだな、かなり上ってきたと思うが。セシリア」
「なんだね婿殿」
「俺とルシルはともかく、お前まで連れてきてしまって済まんな」
俺の言葉にセシリアは肩をすくめて笑顔を見せる。
「別段それは構わないさ婿殿。逆に選んでくれて嬉しいよ。これから天界に行くなんて、冥界の次に行ける所としてはできすぎじゃないか」
「まあな、そう言ってくれると助かるよ」
「ああ」
セシリアが辺りを見回しながら身体を縮こめ、身体を震わせていた。
「寒いか?」
「うん、ちょっと……というか、結構寒いぞ」
「そうかぁ。俺は温度変化無効のスキルがあるから寒くもなければ寒さで動きに制限がかかったりしないけど」
そう言いながらも俺は自分のマントをセシリアにかけてやる。
「ルシルちゃんに悪い、でもないか」
ルシルはルシルで俺の背中にピッタリと貼り付いているから、その様子を見ての事だ。
「私なら大丈夫だから気にしないでね」
ルシルはルシルでそんな返事をする始末。
「はいはい。じゃあ婿殿のマントは借りておくよ。あー、寒いのに熱いねえ」
セシリアのぼやきが寒さでこわばっていた女の子たちの空気を少しだけ緩めてくれたみたいだ。
「ウィブ、上昇する速度が落ちているか?」
「ふむぅ。近くに物もないし判断しにくいとは思うのだが、確かに飛びにくくなってきているのう」
「息苦しさもあるからな、その辺りが関係してきそうかな」
「そうやもしれんのう」
「それかそろそろ……」
ウィブの動きがゆっくりになる。
「勇者よ、なにか柔らかい壁というか、泥沼にはまった時のような変な感覚があるのう」
「そう来たか」
ウィブが言うように、ある一定の所から上に行けなくなっている。
ゼリーのような抵抗力のある塊だ。突っ込んでも、ボヤンと弾かれる。
「ルシル、頼めるか」
「うん。バイラマの記憶から情報を取り出してみるよ」
「よし」
ルシルが天に向けて呪文を唱え始めた。
「ログイン」
空に一瞬、パリッとヒビが入ったような錯覚。
そして空全体に聞こえるかのような透き通った、それでいて血の通っていないような声が聞こえた。
「生体認証リンク、認識しました。おかえりなさいませバイラマ様」
天の声がそう告げる。
「なるほど、生体を使った鍵か」
確かにルシルが今入っている身体はバイラマだった物。
「続けるね。スイッチユーザー、ルートへ」
「かしこまりました。管理者に権限を変更します。ルート権限スイッチ、ラン及びリードライトが可能となりました」
「ディレクトリオープン、ゲートアクセスを実行」
「かしこまりました。ゲートを実行します。プロトコル選択、実行ユーザーは地上界でよろしいでしょうか」
「そのままで」
「かしこまりました。地上界ユーザーとして登録、ゲート開放までしばらくお待ちください」
ルシルが腕を下ろす。
「ゲートが出てくるわ。そこからなら天界へと行けるって、バイラマの記憶にはそう残っていた」
ルシルが額の汗をぬぐうと空が光ったような気がした。