天界への架け橋
俺は心と身体を徐々に馴染ませながら行動を始めた。気を抜くと眠った時のように意識が遠くなる時もあるが、その時はルシルたちが俺の意識を引き戻してくれる。
具体的には俺の顔をひっぱたいたりだが。
「ゼロさん、トリンプさんたちから連絡がありました。白の蜥蜴人間軍団を撃退したと」
「ありがとうシルヴィア。どうやら蜥蜴人間程度ならどうにかなるようだな」
「そうですね。皆さんも精一杯戦われていますので」
「後方の補給をシルヴィアたちが担ってくれているから、前線の兵たちは戦いに集中できるんだよ」
「そう言っていただけると、私たちも荷物を運ぶ甲斐がありますわ」
シルヴィアの言う通り、補給路が確立しているからこそ各地域の拠点は敵の侵攻に耐えられているんだ。
「でもさゼロ、天界の連中もこのまま前線部隊が撃退され続けたら」
ルシルやセシリアたちは天幕の中で俺と作戦を考えている所だ。
「白龍どもが出てくるだろうな」
「流石にみんな、ホワイトドラゴン相手だと大変だよね」
「ああ、それが各地に散らばると俺たちも対処が難しい。かといって生産拠点を造らないと食っていけないからなぁ」
未来、と言っても今俺たちのいる現在だが、ここに過去からシルヴィアたちを避難させた時、俺は事前にルシルたちに指示を出していた。
ボンゲやガンゾのみんなと力を合わせて、天界の連中が攻めてきた時の対策を講じると。
数万の人が一カ所に固まってはいられない。生活基盤がないから、その日食べる物にすら事欠くありさまだから。
「その点、元の国があった場所に戻ってもらって耕作し直してくれているのはありがたい」
「ガンゾの人たちとかと連携してくれたからね」
「ああ、そこは本当に助かっているよ」
「現代の、と言うとあれだけどさ、ガンゾの人たちってスキルが使える人はほとんどいないから、移ってきた人たちがスキルを使うのを見てすごい驚いていたけど」
「そうか、俺の時みたいに手品師とか占い師に見えたりしたのかなあ」
「ふふっ」
ルシルは地図を広げたテーブルに手を置きながら、各地に散らばった仲間たちの事を教えてくれた。
地図には主要拠点とその周辺の人たちの動き、地上界に降りてきている天界の奴らの部隊を木の駒で表現している。
「仲良くやってくれると助かるが……だからこそ、その連携を断つ訳にはいかない」
天幕の外で歓声が上がる。
「ゼロ、来てくれたみたい」
「ありがたい!」
俺はふらつく身体を無理矢理押さえて天幕を出た。ルシルたちが俺に続く。
「ほう、これだけ経ったのに見た目はあの頃と同じだのう!」
天幕の外には大きく羽を広げたワイバーンの姿があった。
「そっちはだいぶ大きくなったみたいだな」
「それはそうだろうのう、なんせ千年は生きておるからのう」
昔の面影はあるものの、あの頃より一回りも二回りも大きくなっているワイバーン。その身体には当時なかった傷もたくさん見える。
「それで勇者よ、儂に天界へと連れて行けと言うのだな?」
ゴロゴロと喉を鳴らすワイバーン。久しぶりの俺との会話を楽しんでいるようにも思えた。
「そうだ、お前に頼みたい。ワイバーンのウィブ!」
俺はウィブの首に手を回すと、勢いよくその背中に飛び乗る。
「鞍を乗せるのも久しぶりだのう!」
「何人行ける?」
「そうさのう、十人は行けるか……のう」
「なんだウィブ、自信なさげだな」
「う、うむ。儂も急な事だったからのう、忘れてしまったのう」
またゴロゴロと喉を鳴らす。
「いいさ、俺とルシル、セシリアの三人だけなら飛べるだろ?」
「ハハハッ、その程度お安いご用だのう」
俺はウィブに天界への架け橋となってもらう。行き来ができるようなら、空を使える仲間にその方法を伝えられるだろう。
「反転攻勢だ。奴らも本拠地を叩かれるとなれば、地上界へちょっかいを出している場合じゃないだろうからな」
俺が見上げると、青く澄み切った空が広がっていた。