凝縮された時の中で引き伸ばされた意識が
なんとなくだが、自我を持っている事が判る。
「俺は……ゼロ・レイヌール」
つぶやいてみる。
だが反応は無い。誰の反応も、自分の声さえも。
俺自身、声を発したのかさえ判らない。
「暗いし、明るい……なんだここは」
なんらかの空間にいる事は理解している。
周りは真っ暗だが目の前にすごい勢いで光が流れていく。
だがそれもまぶた越しに見ている太陽の光みたいに、どこかぼんやりとしていて実感が湧かない。
「これは、時の流れか? 高速で流れているのは時間? よく解らないな……」
よく目をこらせば光の中になにかが見えるような気もする。
人物、風景、事象。
概念として頭に入ってくるような感覚はあるが、通過していく光の量が多すぎて理解が追いつかないのかも知れない。
「まあいいや。それよりも……メイ、無事に国をまとめられただろうか。大きな役割を押し付けてしまってはいないだろうか」
俺の中で葛藤が生まれる。
「だったら俺が残ってやるか? いや、それはない。それをしてはいけない。俺は未来でやらなければならない事があるんだ」
俺は自分に言い聞かせるように言葉にした。
「残っていても天界の奴らを追い返せはしない。俺は一時的に元の時代へ戻ったに過ぎない。元々俺たちは未来へと飛んでしまった人間だ、本来だったら元の時代に関与する事はできなかった」
光の粒がどんどん流れていく。
「初めからメイたちが自分の力で生きていく、それだけの力は持っているはず。俺はそれを信じるだけ……」
そうだ。メイはあれから残った人間たちをまとめ、メイスチン王国を建国したのだ。
俺たちがいなくなった地上界には、メイの仲間たちが住み始める。
そうしてまた人が増え、メイスチン王国は百以上の国に、ボンゲ公国などに分割して統治させていく。
いつしかメイスチン王国は伝説の国家となった。
「あれ? でもそれを俺はなんで知っているんだ? 確かに未来の俺はボンゲの公爵を倒した時に奴から少し話を聞いたが……」
光の粒が俺を通る時、その歴史の残りカスのような物が俺の記憶に織り込まれていくのかもしれない。
「見てきたような気がする程度、だけどな」
俺は誰に言い訳するでもなく、一人つぶやく。
「きっと今の感覚も夢みたいなものかもしれない。ルシルたちのいる時代、俺の身体がある頃に戻れば、忘れてしまう事かもな」
周りを見ても俺の姿でさえ認識できない。
手を見ようとしても手がそこにあるのかさえ解らないのだ。
「ああ、そろそろ起きなくちゃ……。ルシルが折角呼んでくれたんだからな」
光がゆっくりになっていくように思えた。
速度が落ちているのか、本来の時間の流れに俺の意識が近付いているのか。
だんだんとゆっくりになる光の粒の中、今度は俺の意識が暗く重たくなってきた。
「さあゼロ、新たに始める時間だぞ」
俺は自分に言い聞かせたのか、それとも誰かが俺に話しかけたのか。
今はそれすらも曖昧になっていた。