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この時代と未来の世界を

 天界の連中は引き上げた。また戻ってくるには相応の時間がかかるだろう。

 その間、この地上界は破壊につながらないよう人間たちも生きるために世界とともに歩まなければならない。


「メイ」

「なに、牡鹿」

「これからは自然と共に暮らしていき、世界を崩壊から救わなければならない」

「大きな話だね」

「そうだ」


 俺はメイの目を真っ直ぐ見る。


「とても大変だけど、大切な事だ」


 アラク姐さんが腕を組みながらうろうろと歩いていた。


「ねえゼロちゃん、それならゼロちゃんがこのまま世界を護ってくれればいいのに、なんだか他人事みたいに聞こえるのよね」

「アラク姐さん、俺の身体は未来に置いてきている。だから今の俺は思念体の存在だ」

「ゼロちゃん……」

「未来にいるルシルたちが俺の精神を引き寄せようとしてくれている。そうだろ?」


 俺は虚像のルシルに話しかけた。


「そうよゼロ。こっちでゼロの精神を引き寄せる術を完成させたから、呼び寄せる事ができるわ。でも、術式が安定しないからそう長くは……」

「ありがとう」


 俺はルシルたちが行ってくれている術を使えば意識を未来の自分、俺自身の身体に戻す事ができる。


「元々今の俺は実体がない存在で、言ってみれば幽霊みたいなものだ」

「幽霊?」

「ああ。だから俺がこの世界をこの時代で護り続ける事は、正直難しい」

「思念体を構成する要素が希薄になってくる、とか?」


 アラク姐さんの指摘は鋭い。


「確かにそれは俺も感じていた。このままでは俺の意識もよりどころが無くなって霧散してしまうのでは無いかと。だから俺はそろそろ行こうと思うんだが……」

「ゼロちゃん、行こうとしているのはどれくらいの未来なんだい?」


 アラク姐さんが本気なのかからかい半分なのか、意地悪そうな表情で俺を見た。


「そうだなあ、軽く千年、と言った所か」

「千年……まあそこそこかかるねえ。アラク姐さんは蜘蛛女アラクネだから、まあ長命な魔物の部類に入るけどさ、メイちゃんは人間だからねえ」

「ああ」


 俺はメイの頭を軽くなでる。


「メイ、地上界は少しだけ安全になったと思う。人間にとってはな」

「うん、ありがとうね牡鹿。メイは一人でも生きていけるから大丈夫だよ」

「心強いな。なにかあったら瘴気の谷の魔族たちを頼るといい。瘴谷王のバーガルに俺の名前を出せば便宜を図ってくれるはずだ」

「そうなのね」

「ああ。牡鹿と言っても伝わらないからな、俺の名、ゼロ・レイヌールと伝えるように」

「ゼロ・レイヌール……判った、ゼロ・レイヌール」

「よし」


 俺はメイを軽く抱きしめた。


「ホイト、頼めた柄じゃないが、メイの事を頼めるか?」

「べ、別に頼まれなくっても……」

「そうか、ありがとうな」


 俺が右手を差し出すと、ホイトは照れながらも俺の手を握る。


「別にお前に頼まれたからじゃないからな!」

「ああ、それで構わない」


 顔を赤く染めてホイトが手を振り払う。


「アラク姐さんも、元気で」

「ああ。アラク姐さんがお婆ちゃんになったらまた会おうな、ゼロちゃん」

「ははっ、それは凄いな。期待しているよ」


 俺はアラク姐さんとしっかり抱擁を交わす。蜘蛛の脚さえなければ美人で魅力的なお姉さんだ。


「ゼロ、そろそろいいかな?」


 ルシルの声が残り時間の短さを物語る。


「ああ、頼むよ」

「判った。じゃあ、始めるよ!」


 ルシルの掛け声で俺の意識が薄く引き伸ばされるようになった。


「ゼロ・レイヌール」


 薄くなった俺の意識にメイの声が聞こえてくる。


「メイも、いや、我も誓おう。スチーム家当主、メイ・スチームとして。我、そして我の子孫たちがこの世界を護り、そなたに引き継ごう」


 メイ……。


 あ。


 歴史に埋もれた国、メイスチン王国。


「ああ、今の時代、この世界を託したぞ。メイスチン王国初代女王、メイ・スチーム」


 限りなく薄い意識の中、メイの笑顔だけが俺の脳裏に浮かび上がっていた。

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