破壊神が伝えたもの
俺の中に入り込んできた黒く重たいなにか。それを伝って懐かしい声が頭の中に響く。
『ゼロ、聞こえる?』
「ああ……よく聞こえるよ」
『よかった。ようやく追いついたから』
「判った。ルシル」
俺は頭の中に聞こえるルシルの声に応えた。
目の前にいるメイたちにはなんの事か解らないだろうがな。
「どうしたの牡鹿?」
「ゼロちゃん?」
不思議そうにして俺の顔を見る。
「メイ、アラク姐さん、そしてホイト」
一人一人の顔を自分の目に焼き付けるつもりで俺は話す。
「今、俺は時空を越えたとある人と話をしているんだ」
「時空を越えた?」
メイの問いに俺はうなずく。
「待ってくれ」
俺は会話の通じる全員に頼む。
目の前の空間に集中し、俺の頭の中で構成されているイメージを具現化させる。
「お、おお……」
ホイトが目を見開く。それもそうだろう。
「これでどうかな。ルシル、聞こえるか?」
俺の目の前にはルシルの虚像。半透明だが姿がはっきりと見える。
「聞こえるけど、そっちは大丈夫なの? なにか問題?」
「いや、たいしたことじゃない」
俺に送られてくる思念伝達の声を虚像にしゃべらせる事で、メイたちにも話が聞こえるようにしたのだ。
「……バイラマ様」
ホイトはルシルの姿を見て片膝を付く。
「待てホイト。この姿は確かにバイラマの肉体を受け継いでいるが、バイラマではない。世界創造と破壊を行おうとしたバイラマはもういないんだ」
「だったらなぜバイラマ様のお姿が……引き継いだってなんだよ!?」
「俺たちはバイラマから、そしてこの世界を創った者たちから任されたんだ。世界を護るようにと」
「世界を……護る……」
「ああ。だからルシル、今映っている元魔王ルシルは、バイラマの分身として魔族を束ね、そして勇者である俺に倒され、それから世界を滅ぼそうとしていたバイラマを倒すために力を貸してくれた」
ホイトは混乱している頭でどうにか理解しようとしていた。
「バイラマ様を、倒す……」
「そうだ。バイラマは異世界の住人でこの世界を存続させようとした時に、自分の世界へと戻っていったんだ」
「異世界人……あ!」
ホイトがなにかに気付いたように驚く。
「確かに、バイラマ様はボクたちとは違う所があった……。世界を超越していたというか、この世界の常識では計り知れないお考えをお持ちだった」
「俺はホイト、お前たちにバイラマがなにを言ったのかは判らないが、あいつもこの世界をどうにかしたかったんだと思う」
「どうにかって……」
「まあそれがバイラマにして見れば破壊という行為につながったんだろうけどな」
「でも、それならボクたちも滅んで……」
「世界がなくなるなら、みんな一緒に消えるだけだよ」
「そんな……」
ホイトは肩を落として宙を見つめる。
「どんな形であれ、俺はこの世界に住む者たちが未来を決めるものだと思った。だからバイラマには自分の世界に帰ってもらった。この世界を滅ぼさせずに」
「そんな……」
「だからこの世界を創るのは、この世界に生きる俺たちの仕事なんだよ」
俺はメイとホイトの肩を叩く。
「俺たちが護り、創っていく時代になったんだ。神に頼らず、な」
「ボクたちの……」
ホイトの目に、覚悟の光が宿った。