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さようなら身代わりくん

 白龍たちが迫ってくる。俺たちは森の木々と岩の壁を使って身を隠す。


「こんな所に人間がいたぞ!」

「凍らせろ! 凍らせて滅ぼせ!」


 白龍たちは下卑た笑いを空から浴びせながら地上に近付いてくる。


「ぎゃははー! 凍れぇ!」


 白龍がドラゴンブレスを吐き出す。辺りの木々も霜が降ったように白くなっていく。

 ドラゴンブレスの白い塊を浴びせられそうになった俺とメイの人形は、ひらりとかわして木の陰に隠れる。


「逃げた!? ちょこまかと!」


 白龍はドラゴンブレスを吐きながら俺たちの人形を追っていく。

 本体の俺たちがいる方向とは反対に。


「オレたちが最後の兵だからな! 生き残りなんか出したら天帝様に申し訳が立たねえ!」

「必ず見つけて殺すぞ!」


 騒ぎながら白龍たちが俺の影を追う。


 さてと。適当に逃げた所で手柄を立てさせてやるか。


 俺は手こずらせるように見せかけて最後は白龍たちに俺の人形を潰させるつもりだった。


「気分は最悪だけどな……」


 人形とはいえ俺の分身を消させるんだ。いい気持ちはしないよな。


「ぎゃははは! まて~い!」


 白龍たちが森の中を追いかけっこしている。


「そらそらぁ、追い詰めたぞ!」


 俺とメイの人形が白龍たちに囲まれた。


「さあ、オレらのブレスで凍って粉々だぞう!」


 そう言った白龍が人形を脚で踏みつけた。


「なぁ~んてな! ブレスじゃなかったぜ、踏み潰してぺちゃんこだぁ!!」

「ぎゃーははは!!」


 白龍が脚を上げると、そこには俺の人形が。


「こいつ、ぺちゃんこにならねえで、中身がぶちゅっと出ちゃってるぜぇ~!」

「ほんとだぁ、ぶちゅっとだぁ!」


 それはそうだろう。俺がそう見せるように人形の姿を変えたんだからな。

 本物と思ってくれると助かるんだが。


「こいつらが蜥蜴人間リザードマンどもを殺したとはなあ」

「オレらにかかりゃあこんなに簡単だってのによ!」

「まったくだぁ! ぎゃーははは!!」


 高笑いをして空に飛び立つ白龍たち。

 笑い声が徐々に小さくなっていく。


「もうよさそうだな」


 俺は潰れた姿の人形を意識から解除する。

 人形は煙のように消えてしまった。


「すごい……。牡鹿はこんな事もできるなんて……」

「まあな。あいつらが間抜けで助かったよ。それに最後の兵だとすれば、もうこの辺りは安全と言って

いいんだろうな」

「そうだといいね」


 神経を尖らせつつも少しは緊張がほぐれた所だ。


「うっ!」


 俺の胸になにやら重たい物が沈んできた。


「どうしたんだいゼロちゃん!」


 アラク姐さんが俺を支えてくれる。アラク姐さんがいなかったら倒れ込んでいる所だ。


「だ、大丈夫……」


 俺の胸の奥になにかができはじめる。それがだんだんと大きくなって重くなっていく。


「大丈夫……じゃ、なさそうだな……」

「ゼロちゃん!」


 アラク姐さんが俺の背中をさすってくれる。

 メイも心配そうにしていて、その隣にいるホイトも不安そうな顔で俺を見ていた。


「へへっ、ホイト……意外だな」

「う、うるさい……お前になにかあったらボクがバイラマ様の仇を取れないじゃないか……」

「そうか……だったら今がいい機会、かもしれないぞ……」

「そ、そうかも知れないけど……ボクは弱っている敵に手をかけるような卑怯な真似はしない!」

「ははっ、それは偉いな……」


 俺の中に黒く重たい物が広がっていく。

 そしてその中に小さい塊が、小さいけれど懐かしい、温かい塊が生まれてきた。


『ゼロ……聞こえる?』


 俺の頭に響いたのは、俺のよく知る声だった。

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