通路封鎖で一網打尽
結構な人数が地下迷宮に侵入してきている。うっすらと見える白い影が天界の連中だという事を示していた。
「全ては手はず通り」
俺はメイたちに目配せをし、皆無言でうなずく。
「アラク姐さん、頼む」
「了解!」
天界の連中が武器を手にして突進してきた。蜥蜴人間の部隊だ。
「これでもくらいなっ!」
アラク姐さんが糸を繰り出して先頭の蜥蜴人間に命中する。粘つく糸に絡まった蜥蜴人間が騒ぐと余計糸が絡まっていき、周りにいた蜥蜴人間を巻き込んで行く。
「すごい! アラク姐さんお尻から糸出してる!」
「ちょっとメイちゃん! アラク姐さんね、ここはお腹の下の方でお尻じゃないのよ!?」
「そ、そうなの? ごめん……」
アラク姐さんが怒るものだからメイが反射的に怖がってしまったが、アラク姐さんはメイの頭を軽くポンポンと叩いて落ち着かせる。
「大丈夫よ気にしないで。女の子にはいろいろと秘密があるからね」
「うん」
メイは少し涙目になっていたが、それでも気丈に振る舞う。
「よし」
俺は足止めを食らっている蜥蜴人間たちを見てホイトに指示を出す。
「いっちょやってやれ」
「判った!」
ホイトは戦闘の興奮で俺の指示でもすんなり受け取る。
大きく振りかぶってホイトが石を投げると、通路脇にある土の小山に命中した。
「いけっ!」
ホイトが投げた石は土の小山を弾き飛ばし、その小山に寄りかかっていた添え木が倒れる。
添え木は通路の床を覆っていた土の板を支える役目をしていたから、板が砕けてぽっかりと大きな穴が口を開けた。
「グギャギャ!」
「ゴギャー!!」
蜥蜴人間たちがまとめて穴に落ちる。
「この穴は、深いぜ」
蜥蜴人間が混乱している隙にアラク姐さんが粘つく糸で通路をふさぐ。
「よし、撤退だ!」
「うん!」
俺たちは罠を突破できない蜥蜴人間たちを放っといて反対側にある隠し通路を進む。逃走路として作っていたこちら側からは敵が侵入してきていないようだ。
「慌てることはないが速度を上げよう」
「そろそろ突破してくる奴も出てくるでしょうからね」
「ああ。あの罠は一時しのぎだからな」
奥にまで侵攻してきた天界の連中をどうにか押さえ込みながら俺たちは先へ先へと進む。
「ゼロちゃん」
アラク姐さんが俺を呼び止めた。
「頃合いか?」
「ええ。もう入り口付近に動きがなくなってから予定の時間が経ったわ」
俺はアラク姐さんに入り口の反応を確認させていた。
入り口に糸を張り侵入者を検知するのもそうだが、侵入者が入ってこなくなってからどれくらい時間が経っているかも確認してもらっていたのだ。
「そうか、もう新しい奴は入ってきていないか」
「ええ」
「そうなると、もう侵入部隊は全部地下迷宮に入り込んだと見ていいな」
「そうね」
俺の前を進んでいたホイトが振り返る。
「勇者ゼロ、出口が見えたぞ!」
「判った、すぐ行く!」
先にメイとホイトが出口の扉を開けた。外の光が入ってきて眩しさに目がくらむ。
「へぇ、ここに出るのか」
ホイトは外に出ると辺りを見渡していた。
隠していた扉は、外から見るとただの草むらに見える。それに扉は内側からしか開かないようにしていた。ここからは敵が侵入してこないようにするためだ。
「よし、アラク姐さん……やってくれ!」
穴から出た俺たちはアラク姐さんに指示を出す。出口にある糸の束を引っ張らせるのだ。
「いいわよ。それっ!」
仕掛け用の糸を引っ張ると地下迷宮内に張り巡らせた糸に連動して罠が発動する。
ゴゴゴゴゴ!!
森のあちこちから轟音が響く。
それに合わせて地面もかなり揺れる。
「ねえ旅の牡鹿、これはなんの音?」
メイが揺れる地面に耐えるため俺にしがみつく。
俺の代わりにアラク姐さんが説明してくれる。
「入り口をふさいだのよ。全部ね」
「全部!? すごいいっぱいあったのに!?」
「そうよ。アラク姐さん大変だったんだから~」
そう言いながらもアラク姐さんは自慢気な顔で俺たちを見ていた。
「そしてだ。ホイト、いいぞ!」
「チッ、しょうがねえな。行くぞ!」
ホイトは土の塀を蹴飛ばす。塀が崩れてそこから水が染み出してくる。
「ここは水源の近くだからな、地下水を押さえていた仕切りを壊せば……」
染み出してきた水は徐々にその嵩を増し、逃走路で使っていた通路に流れ込む。
「低い所に流れていく」
俺が仕込んだ罠は、巨大な地下迷宮を敵の墓場にするというもの。
「入り口をふさぎ、出られなくしてそこに水を流し込む」
「ゼロちゃん怖い事考えるのね」
「全員とまともに戦ってはいられないからな」
逃げ場を失った敵部隊はこの地下迷宮で消息を絶つ事になる。