白に対抗する暗黒の地下迷宮
俺は地面に意識を集中する。俺の手から地面を掘り進むスコップを想像して穴を作り、押し広げていく。
「うわぁ……牡鹿すごいね!」
メイが地下へ進める階段が作られるのを見てびっくりする。
ホイトも目を見開いているから、こいつもきっと驚いているのだろうな。
「流石に穴を掘ったり形を作ったりするのには時間圧縮を使えないなあ。もっと早くやろうと思ったんだが単純に移動させるのとは訳が違うな」
それでも俺はあっという間に穴を掘り、奥へ奥へと進んでいく。
掘る事で出た土は地上に積み上げておいた。後で入り口用の小屋にでも使おう。
「ゆるい場所は押し固めて、火のスキルでじっくり炙ってやれば固い壁になるな。こんな所で昔覚えた工作のスキルが役に立つとは思わなかった」
いくつもの小部屋を作り、いくつもの通路を結ぶ。
「侵入者用の罠でも仕込んでおくか」
落とし穴には底に尖らせた土の槍を何本も立てて蓋代わりの薄い土の板をそっと乗せる。
「この通路は地上への近道だけど罠を置いているから通らないようにな。もし落ちたとしても俺の救助が間に合うか判らないし」
「う、うん……」
一応二人には危ない道は教えておく。
それでもどんどん新しい通路や部屋は作っているから、判らなくなってしまいそうだが。
「うーん、これだとどこになにがあるか判らないだろうなあ。ホイトももう判っているだろうから言ってしまうと、俺は思念体だから重さも無い事にできる。落とし穴とかバネ仕掛けの罠を作動させる心配は無いんだが……」
なぜかここでホイトが舌打ちをする。
「だから無茶苦茶に罠を作っていたのか」
「悪いな、お前たちには不便だろうけど、ちょっと作り始めたら面白くなってしまってな」
「ちっ」
またここでホイトが舌打ちをした。
「ん?」
そうは言いながらもホイトが懐から皮でできた紙を取り出す。
「なんだこれは」
「いいから見てみろ」
言われるがまま俺はホイトから紙を受け取り広げる。
俺の隣でメイも覗き込んでいた。
「おお」
「わぁ!」
そこにはこの地下洞窟の詳細な地図が。罠の位置も明確に描かれていてどの道をたどれば安全かがすぐに判る。
「すごいな、いつこんな」
「別に、お前が穴を掘っていた時暇だったからな」
「いやぁすごいなホイト!」
俺はホイトの頭をグリグリとなでた。
「や、やめろよっ!」
口では拒否するが俺の手をはねのけようとはしない。
こいつ、まんざらでもなさそうだ。
「それにしても牡鹿はすごいね、こんな地下洞窟……ううん、もうこれだと地下迷宮だよね! こんなのを作っちゃうなんて!」
「そうか?」
俺もメイに褒められてまんざらでもない。
水源も近くにあるし食料も森から調達すればどうにかなりそうだ。
「いやちょっと待て……」
ツタを使って侵入者を検知する仕掛けを作っていたが、それが反応する。
ツタに土の板を何枚かぶら下げて、誰かがツタに触れるとその土の板がぶつかってカラカラ音が鳴る仕掛けだ。
「誰かが入ってきた」
子供たちに緊張が広がる。
俺は仕掛けの場所へと足音を殺しながら移動した。