塩の商売人
俺たちを商会の大広間に案内してくれたエッチョゴが豪勢な椅子に座る。大広間の中央に置かれている長テーブルの端にエッチョゴが位置している形で、俺たちはエッチョゴから見て斜め左側の長い部分に並んで座っている状態だ。
「ふぅ」
俺は椅子に座った時、ついため息が漏れてしまった。
エッチョゴの椅子に比べると俺たちの座る椅子は多少見劣りもするが、俺たちにとって背もたれのある柔らかい座面は、長旅の揺れる板敷きの床に比べれば十分身体を休められるものだ。
「改めて皆さん、私はこのゾルト村の商会の会長、エッチョゴです。シルヴィアは久し振りだが他の皆さんは初めましてですな」
小太りのエッチョゴが楽しそうに喉を鳴らす。
辺りを見ると貧しい村という話だったがそれにふさわしくないと言うと失礼だろうが、売ればそれなりになりそうな調度品が部屋を飾っている。
通ってきた廊下の汚れ具合や老朽化した壁の様子から見て、この部屋だけ豪華で変な感じがした。
「村に来てすぐにエッチョゴ様へご挨拶できたのは幸運でした。それでエッチョゴ様……」
「うんシルヴィア。会長と呼んでくれてよいのですぞ」
「あはい、でも昔通りエッチョゴ様と呼ばせていただければと思いますが……あの、会長は今どちらに」
「だ~か~ら~、会長はこのワシ、エッチョゴですぞ!」
エッチョゴは少し不機嫌そうに身を乗り出して訂正する。
その勢いでグラスが倒れ注がれたワインが白いテーブルクロスを赤く染めた。
「あのバイヤルのジジイは墓場脇の小屋で暮らしておるわい!」
「これは申し訳ありません、失礼いたしました」
シルヴィアは素直に詫びを入れる。
「何せこちらにお伺いするのは私がまだ子供の頃以来でしたので」
「そ、そうですな、ワシも少々大人げなかったですぞい」
エッチョゴはジャボ、ひらひらしたフリルの付いた襟飾りを乱暴に直すと、また椅子に座り直した。
「それで今回は何をしに来たのですかな。この村には塩しかないですぞ」
「はい、私たちは麦の種をお持ちしました。それと畑の作り方を」
「ハーッハッハッハ! この村に畑!? シルヴィア、あなたも知っているでしょう、この村に作物は育たない事を!」
「それはこの村の産業である岩塩と深い関係がありますよね」
シルヴィアがエッチョゴと目を合わせる。シルヴィアの真剣なまなざしにエッチョゴも言葉を失う。
「ちょ、ま」
「はい、今回は畑を作る方法の一つとして、アイスプラントをお持ちした次第です」
俺たちの荷馬車に積まれていたたくさんの種が入った袋。それが俺たちの塩対策だった。
「これで塩対応ともさようならです」
笑顔のシルヴィアの奥には、得体の知れない凄みがあった。