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堕ちてきた少年

 薄暗い森の中、俺とメイは少年の後について行く。


「なあメイ」

「なに?」


 俺は少年に聞こえないよう、小声でメイに話しかける。


「水場はこの方向で合っているのか?」

「この先に水はないよ」

「やっぱり」


 この森に長い事住んでいたメイが言うのだから間違いない。


 前を行く白い少年は進みながらキョロキョロしていた。その挙動にうさんくささを感じていたが、思った通りだ。


「水場に案内するとか言って、あいつ俺たちを違う所に連れて行こうとしている」

「なんで?」

「さあな。だが確実にあいつは嘘をついている、用心しろよ」

「わかった」


 少年の目的は判らないが、きっと敵対勢力だろう。地上界に攻め入ってきた、天界の連中だ。


「メイ、お前はあいつみたいに真っ白い身なりの奴を見た事あるか?」


 メイは首を横に振って否定する。

 森の中であんなに白い格好をしていれば、いや服装だけであればまだしも、顔も色白で髪も白髪だから目立たないはずがない。


「あっれぇ?」


 少年が立ち止まる。

 俺はメイを後ろに隠して少しだけ腰を落とす。もしもの時は時間の圧縮を使ってでもこいつを片付けよう。


「どうした少年」


 緊張感を気付かれないように、あえて軽く答える。


「道、判んなくなっちゃった……」


 困り顔で小さく舌を出す。


「それは、仲間との合流地点……か?」

「仲間?」


 俺の質問が理解できなかった様子で少年は真剣に考えている。

 目を閉じたり、森の中を見つめたりしていたが、なにかに気付いたようでハッとした。


「あ、違う、違うよ! ボクはね、本当は」

「おやぁ?」


 少年が慌ててなにかを言おうとしていた所に誰かの声が重なる。


「こんな所で見つけるとはなあ、オレってすげぇ運がいいなぁ!」


 木々の隙間から出てきた奴は、これまた白い姿。

 だがそれは今まで俺が見てきた天界の連中ではなく、蜥蜴人間リザードマンだった。


「ほら見ろ、この白い蜥蜴人間リザードマンはお前の仲間なんじゃないか? 俺たちを売るつもりだったって事だな」

「ちがっ、違うん……」


 白い少年がしどろもどろになって否定する。


「おいおいホイト、そっちにいるのは人間じゃないか? おめー、人間を捕まえに行ってたのか? ほほう、それは関心関心……」

「えっ、あの……」


 白い蜥蜴人間リザードマンは少年に笑いかけた。

 だが少年から緊張感が抜けていない。


「関心……なわけねーだろが! 重要指名手配犯ホイト! 堕天した罪は死んでも消えねぇ! だから賞金首をオレによこすんだな!」


 蜥蜴人間リザードマンは舌なめずりをして長く湾曲した刀を抜く。


「それに人間付きなら、オレも出世できるってもんだぜ、へへへっ」


 チラリと俺たちを見る。

 爬虫類の縦に割れた瞳孔が細くなった。


「なあ白い蜥蜴人間リザードマン

「んあ、なんだ? おめーはホイトを片付けてからゆっくりなぶり殺しにしてやるから、ちょっとそこで待ってろ。逃げんじゃねーぞ!」

「別に逃げるつもりはないが、そうか、この少年……ホイトと言うのか。ホイトは天界から逃げてきたのか?」

「おーよ、おめーら地上の連中を踏み潰しに行くって時に脱走しやがってよ! まあ、そうでもなきゃ天界の上流種族サマとなんかおしゃべりできねーけど、へへへっ!」


 蜥蜴人間リザードマンが刀をホイトに向けて振った。

 ぼけっとしていたホイトを見て、時間圧縮をかけた俺がホイトのてを引っ張る。

 あまり急な動きをしては通常の時間の流れに生きる者たちの負担が心配だが、今はそれどころじゃない。


「おやぁ?」


 刀をからぶった蜥蜴人間リザードマンが不思議そうに俺を見る。

 俺が引っ張ったホイトは恐怖で目を見開いたまま。その背中に刀が届いていたようで、服が少し切られていた。


「ホイトお前……」


 ホイトは怯えた顔で俺を見る。

 切られた背中には、小さい羽が生えていた。

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