隠れた人と隠れていた少年
森の中、一本の木が燃えて消えた。
木の中は空洞ができていて、メイとオジバが住んでいた木だ。
「もう火も消えたな」
俺が連れ出した後、メイが燃え盛る炎に飛び込むかと想っていたがそんな事はなかった。
ただじっと炎が木を飲み込む姿を見つめて、唇を噛みしめ、大粒の涙が流れて。
「俺はてっきり焼け跡からなにかを拾いに行くのかと思ったが」
「いいの。全ては焼けてしまったから……」
「そうか」
メイが生活していた痕跡、そしてオジバの遺品。そういう物を探しに行くかと思っていたがメイはそうしなかった。
「うん。お別れは、したから……」
「そうか」
焼け跡から煙が立ち上っている。
山火事にならなくて済んだのはよかったが、この火を誰かが見つけたとすれば……。
「火に恐れを抱く者は離れるだろうが、なにか意味を見いだす者は近付いてくるかもしれない」
「え?」
「あ、独り言だが……夜中に大きな火が出たんだ。森の動物たちは遠くに行ってしまっただろうがな、そうでない者たちは寄ってきているんじゃないかと思ったんだよ」
「そうでない者たち……」
俺は周りに気を配りながらメイを見る。
泣きはらして真っ赤になった目、ススだらけの顔、着の身着のままの姿。
火が消えて森も少し肌寒くなってきた。
「ほら」
俺はマントを想像して物質化し、メイにかけてやる。
「うん……」
そのまま受け入れるメイ。
「この辺りに水場はないか? 顔を洗ってこよう」
「うん……」
「お前は飯を食って、これからも生きていくんだからな」
「うん……」
返事はするが、やはり心ここにあらずといった所か。
「さてと、どうしたものかな……」
俺がなにかを考えている振りをして頭をかく。
「メイ、どうやら俺たちは誰かに見られているみたいだし」
「うん……」
生返事は変わらない。
だが陰でこそこそしている奴には伝わっただろう。
「だからまあ、その木の後ろにいる奴、もうバレてるから出てきていいぞ」
俺はまどろっこしいのが面倒だから隠れている奴に声をかけてやった。
「し、仕方がないなあ、判っちゃっているなら隠れていてもしょうがないよね」
「さあ、それを俺に聞くのはどうかと思うがな」
「やれやれ」
大木の後ろから出てきたのは全身真っ白の子供だ。
髪は短く幼さの残る顔は、少年のようだった。その口調とは裏腹に。
「お前、天界の連中か?」
「お、知っているのか。なら話は早いな」
「その天界の者が何用だ」
「森の中で急に火が出たものだからね、気になって来てみたんだよ。大火事にならなくてよかったよねえ」
白い少年はあっけらかんとしている。俺に対して特に警戒をしている様子もない。今ここにいる三人の中で俺が一番大きい。俺は自分の姿を十代後半に設定しているが、メイは十代前半の女の子に見えるし、白の少年に至っては十歳くらいに見える。
その中で警戒しないというのは、無邪気なのかそれとも……。
「巡回に来たとか、か?」
「え? ううん、そうじゃない、じゃなくて、あ、ああ。そうだとも。ボクは巡回をしていたんだよ!」
「なんだか怪しいなあ。取って付けたような言い訳に聞こえるが、まあいい」
俺は自然に見えるようにゆっくりとだが、メイを背中にかばいつつ白の少年と向き合う。
「巡回ならこの辺りの水辺を教えてもらえないかな。こんな姿なんでね、洗いたいんだ」
俺は両手を広げてススで汚れた姿を見せる。
オジバに指摘された事を生かして、俺の服は火事で焼け出されたような物を想像した。
「それは大変だったねえ。水、水場ね。そうだね、ここはボクの庭みたいなものだからね、巡回しているんだもん、どこだって知っているよ! じゃあ、ついてきて!」
白の少年が俺たちを手招きする。
俺はメイの手を引いて少年の後についていった。