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地に潜む勇者と狩人の少女

 天界の白龍どもが大量に押し寄せてくる前に俺はエイブモズの町から離れる事にした。

 バンカは俺の一発を食らって怯んでいる隙に時間圧縮を使って瞬時に移動する。


「案外、ぎりぎりだったな」


 俺が離れると同時に白龍どもがエイブモズの町にブレスを吐きまくった。

 氷となって砕け散るエイブモズの町。尖塔や研究所の建物があっという間に廃墟と変わる。


「人さえ、人さえ残っていれば再建はできる……俺は忘れないからな……」


 捨て台詞を吐いて俺は戦闘から逃れた。


「ひとまず落ち着け、考えを巡らせるんだ」


 俺は大陸を超えて海を渡り、西の大陸にも行ってみる。


「どこもかしこも破壊の限りだな。人は……見当たらない」


 バーガルみたいに天界の連中と共に生きようとしている者以外は、俺の知る限りの世界にはいなかった。

 全ての土地を舐めるように調べたわけじゃない。山奥や森の中で生活している連中もいるだろうが、集団としては組織化されていないはず。


「これだけ移動して探していても見つからないからな……」


 意識を集中すればものすごい速度で移動し、物事を見る事ができる。

 それでも人っ子一人見つける事ができなかった。


「それは避難が上手く行った、ということでもあるから、よしとしよう」


 俺はそうやって自分を納得させる。自分の気持ちを強く持たないと今にも消え去ってしまいそうだからだ。

 そんな俺がところどころで見るのは破壊された町と居残りの白龍くらい。


「戻るか、こんな状態で俺は戻れるのか……」


 自問自答を繰り返し、天界の連中から見つからないように隠れ、移動し、繰り返される日と月の動きを追っていた。

 その間、ルシルたちとの連絡は取れないままだ。

 海に行けば乙凪おとなたちが俺を迎え入れてくれるかも知れないが、未来の竜宮城に天界の連中が襲ってきた事を考えると、今俺が行っては天界の連中に竜宮城の存在を知らせてしまう事にもなるだろう。


「ここは自重しよう。乙凪おとなたちに迷惑をかけてしまうが、それは今ではない。同様にバーガルたちに頼るわけにも行かないだろうな。あいつらはあいつらで天界と折り合いを付けるのに必死だ。俺が訪ねていっては困るだろう」


 俺はどこぞの山脈の森に身を潜め、季節の流れを肌で感じていた。


「俺に残されている手段は、冥界の扉を開く方法を探り出すか、それとも……」


 思念体だから空腹になる事も喉が渇く事もなくいられる。

 恐らく数年の時は過ぎ去っているだろうが、身なりも汚れた所はない。第一俺が考えている姿だ、汚れを想像しなければ汚れは付かないのだ。


「意識をゆっくりにする事で、世界の動きが速くなる……こうやって千年過ごしてもいいかもしれないな」


 俺が独り言を吐いていた時。


「あんた旅人かい? こんな森の中でなにしてるんだい」


 朗らかな高い声。まだ大人になりきらない少女の声だ。


「ひと……?」


 久しぶりに会話をする。

 獣の皮を身にまとい、まだ幼さの残る顔をした少女だ。


「あっは! そうだよ、メイは人! この森に住む人間だよ!」


 名と名乗った少女は、ウサギを肩からぶら下げていた。


「そのウサギは君が仕留めたのかい?」


 ウサギは後ろ脚に怪我をしているから罠でも使ったのだろう。


「そうだよ! メイもウサギが狩れるんだからね!」


 得意気に見せてくれるウサギ。

 その茶色い目は見知らぬ俺を興味津々に見つめていた。

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