冥界からの使者
ドラゴンブレスが人々に降り注ぐその寸前。白龍たちに巨大な雷が落ちた。
「SSランクスキル爆雷煌ォ!」
「アリア!」
アリアが残った魔力を使って、民たちが少しでも脱出できるようにと白龍たちの攻撃をさえぎる。
「陛下!」
「アリア様!」
冥界の扉へ向かう民たちからの感謝がアリアに送られた。
「アリア、なけなしの魔力を使いやがって」
「でもさお兄ちゃん、こうすれば少しでも……一人でも助かる、よね……」
魔力枯渇でアリアは一気に力が抜ける。
実体化した俺の腕にもたれかかって浅い呼吸であえいでいた。
「くそっ……魔力が、魔力があれば……魔晶石に魔力が供給できれば……」
俺は思念体だから魔力を持っていない。精霊界からの提供も尽きた。
ここにいる者たちは全員力を出し尽くしている。
「俺は……アリアたちを見殺しにするしかないのか……いや、違う!」
冥界の扉へ人々が吸い込まれていく。閉じようとする扉に後どれくらいの人が避難できるだろうか。
その扉の奥、空気の膜が歪んで見えるその奥に俺は光明を見る。
「シルヴィア! 聞こえるかっ!」
俺の声は冥界の扉へと吸い込まれていく。
「セシリア! 冥界から……そっち側から扉に魔力を与えてくれっ! 頼むっ!! ゲルダ、アガテー、聞こえたら力を貸してくれっ!!」
扉は徐々に閉まっていき、一度に通過できる人数が限られてくる。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だアリア、向こうには心強い仲間がたくさんいる! 今まで避難できた者たちがいるんだ! だからお前も必ず助かる!」
「お兄ちゃん……」
アリアは疲れた顔で弱々しく笑う。
「結局みんなに頼っちゃうんじゃん」
「ああ、俺は一人でなんでもできるわけじゃない。民がいてこその王だ。民に支えられている王なんだよ」
「そうだね、みんなに支えられるって事は……かっこ悪い事じゃないね」
「もちろんだぞアリア。お前だってそれを肌で感じているだろう?」
「そりゃそうよ。アリアはお兄ちゃんみたいに強くないから、みんなに頼りきり……だもん」
「アリアはアリアの、俺は俺のできる王様っていうのがある」
俺はアリアの前髪を手ぐしでとかしてやる。
「お前も、王様をきちんとやってくれたんだな。お前に任せてよかったよ」
「お兄ちゃん……」
アリアを見ている俺の視界に入ってきた冥界の扉が。
「止まっ……た? いや、少しだが広がってきている……」
冥界の扉が、閉じかけていた扉が、また開こうとしていた。
「ゼロ様!」
扉の奥から聞こえる声。
「お前……ベルゼルか!?」
「はいっ、ゼロ様のお声を頼りにこちらの扉へたどり着きましてございます!」
「でかしたぞベルゼル!! よし、冥界から扉を押し広げてくれ! アリアたちが避難し終えたらここの扉は閉じて構わない!」
「かしこまりました、ワタクシの名誉にかけまして」
「頼むぞ!」
俺は近くにいた兵にアリアを託す。
「アリア、お前が最後だ。あの扉をくぐれ」
「お兄ちゃん……」
「俺もすぐ行く。ルシルたちと合流してからな」
「うん。待ってる」
兵たちに肩を借りながら、アリアは自分の足で冥界の扉をくぐっていった。
「よしベルゼル、扉を閉めよっ!」
「承知つかまつりました」
区間の向こうに見える魔王の副官と俺は視線を交わし、この地から意識を薄れさせる。
俺の消えかかった意識の中で、ベルゼルが礼をする姿と扉が閉まる様子を認識した。うっすらと、夢のような感覚で。