妹を助けに
各所の避難はどうにか済ませた。
「俺が間に合う限りは救えたと思うが……」
思念体でも冷や汗が出る思いだ。
「大丈夫、ゼロ……」
ルシルが心配そうに俺を見ているが、ルシルも精霊界とこちらをつなげつつ冥界の扉も維持する離れ業をやってのけている。俺ばかりが弱音を吐くわけにもいかない。
「大丈夫と聞かれて駄目だとは言えないからな、後はアリアたちの所だけだ」
「アリアの……レイヌール勇王国の中心だね」
「ああ。各地から避難民が大勢いるから脱出に時間がかかっているみたいだな」
「判った、私も扉をもっと大きくできるか試してみる……」
「そんな事が!?」
ルシルは小さくうなずく。
「ゼロちゃん! 精霊界はもう魔力が送れない……足りなくなってきたなん!」
精霊界と結ぶ魔力伝播装置の向こうからロイヤの声が聞こえた。
「ロイヤ! そっちはあとどれくらい行けそうか!?」
「そ、そうね……転移に使える魔力はあと五百人分くらいなん。また魔力を溜めるのに数日はかかるなん……」
「済まん、こっちの都合で精霊界の魔力を枯渇させてしまったな」
「いいなん、緊急事態なのは解っているなん!」
「恩に着る!」
俺は装置の向こうのロイヤに心の底からの感謝を伝える。
「そしてもう一つ、意識を飛ばしていた最後の場所……アリア! もう少しこらえてくれ!」
俺の飛ばしていた意識に集中すると、目の前の景色がアリアのいる場所へと広がっていく。
今まで意識を束ねていた場所の情景が薄れ、アリアたちの姿が鮮明になっていった。
目の前にはアリアとその護衛たち。俺の分割した意識で白龍たちをあしらっていたが、完全に撃退するまでには至っていない。
「アリア、他はもう撤退した! 後はこことエイブモズの町だけだ!」
「お兄ちゃん……よかった……。さっきより姿が濃くなっているけど」
「ああ、今はこちらに意識を集中できているからな」
俺は上空の白龍たちに爆炎を投げつけながら、アリアたちが避難民たちを誘導している所へドラゴンブレスが降ってこないように氷の壁で守りを固める。
「避難民たちはあとどれくらいいそうなんだ?」
「そうね、残りは千人もいないくらい。後一時間もかからないで冥界の扉をくぐれると思うよ」
「千人か」
「うん、アガテーやセイラにも手伝ってもらって、もう少し早くはできると思う」
「そうか……」
俺は白龍への権勢と防御を繰り返しながら、アリアから状況を聞く。
「どうしたのお兄ちゃん、こっちに意識を集中してくれたのは嬉しいけど、浮かない顔だね」
「判るか?」
「うん判るよ。アリア、お兄ちゃんの妹だもん」
ルシルの魂が入っていた器だったアリア。俺と冒険をした頃のルシルの姿だが、今はもう幼い頃から俺と暮らしていた女の子に戻っている。
そのアリアだ。俺の心の動きは気付かれてしまう。
「正直に言う。もう精霊界からの魔力が切れそうだ。俺もルシルも思念体で今の時代に来ているから魔力の供給ができない。今、そっちの魔晶石に溜まっている分の魔力で冥界の扉は閉じてしまう」
「うん、なんとなく解ってた」
アリアは健気に笑ってみせる。
「そっか、魔力の転送量が減っているって思ったけど、もうじきかぁ」
そう言いながらもアリアは避難民たちを門へと送り続けていた。
「急げばまだ行けるからなアリア!」
俺の励ましに笑顔で返すアリア。その顔には疲労が色濃く出ていた。
「ねえお兄ちゃん」
魔晶石がどんどんと透明さを増していく。それだけ中に入っている魔力が減っているという事だ。
「なんだアリア」
「アリアさ、お兄ちゃんの後を引き継いで……ちゃんと王様、できたかな?」
俺が作った氷の壁が破られてドラゴンブレスが避難民たちを襲う。
「しまった!」
俺は民たちに向かって手を伸ばす。それが意味の無い事だと知っていても。
冥界の扉を開けるために使っていた魔晶石の魔力が尽きようとしていた。