分散して薄くなりそして広がる
巨大な魔晶石に魔力が詰まっていく。精霊界からロイヤたちの力を借りて注入しているのだ。
「ユキネ、遠くの拠点はどうだ!」
「魔力供給は進んでいるわ!」
「ルシル、茫漠の勾玉との連携は!?」
「冥界への扉は開いたよ! 思念伝達で送っている!」
ルシルの声を聞いてユキネが反応する。
「拠点から移動が始まったよ! 遠隔地側でも冥界の扉へ接続できている!」
この作戦に参加した集団とは連携して冥界の扉を提供しているのだ。
「少しでも……助けられれば……」
ピカトリスが全体を確認しながら様子をうかがっている。
「ゼロ君、あちこちで白龍たちが襲ってきているって!」
「くそっ!」
ピカトリスの表情は真剣を通り越して焦りに包まれていた。
「ピカトリス、逃げる間だけでもいい! 増援を送れないか!?」
「無理よ! どこから出せばいいのか、それに増援をしたってその子たちはどうするの!」
確かにピカトリスの言う通りだ。避難する時間すらない状況では誰かを捨て駒にして天界の奴らを押さえる必要がある。
だがそいつはここで死ねという意味にもなるのだ。
「それでなくとも必死で戦っているんだから、逃げるのを助けるだけで精一杯……」
悔しそうにピカトリスが唇を噛む。思念伝達で状況を把握しているだけに次々と倒されていく人々の思念を受けるだけでも苦しいだろう。
「思念……そうか!」
俺の声に驚いてルシルやピカトリスが見つめる。
「どうしたのゼロ」
「なにか考えついたのかしらゼロ君」
「聞いてくれ。俺の意識を思念伝達に乗せる事はできるか!?」
「それはゼロの意識を私の思念伝達で伝えるって事なら」
「できるか!?」
「う、うん。できると思う」
俺はルシルの肩をつかんで頼み込む。
「俺の意識を思念伝達で各地へ飛ばしてほしい!」
「えっ!? 各地って攻められている場所!?」
「そうだ!」
俺は思念伝達が使えない。こういう時はもどかしくてならない。
「い、いいよ……私の意識と同調して、思念伝達に乗せるから」
「同調……どうすればいい?」
ルシルは俺の腰に手を回す。
「こう……」
ルシルが俺の額に自分の頭をくっつける。
「見える?」
俺の頭の中に遠くで戦っている者たちの姿がいくつも見えてきた。
今まで思念伝達でルシルを仲介して会話をした事はあったが、意識の共有をしたのは初めてだ。
「み、見える……。みんな戦って……必死に……」
それと同時にルシルの考えている事、気持ち、想いも俺の頭の中に広がる。
「ルシル……」
ルシルは顔を赤らめて、それでも腹をくくった覚悟の表情で俺を見た。
「私の気持ちがゼロに伝わっても……いいの。今はそれどころじゃないから、許す」
ピカトリスが俺たちのやりとりを見て取り乱す。
「なに、なにをしているの!? 思念伝達の共有って、そんな、だってそんな事できるの!?」
「思念体同士だからできるのかもしれない」
「そんな……これは研究したいわね! 後で実験させなさいよねゼロ君!」
ピカトリスは俺につかみかかりそうな勢いだ。
「い、今はそんな事を言ってられないだろ……俺は、俺は……」
俺の意識がいくつにも分裂して引き伸ばされていく。
そして薄く細かくなった俺の一つ一つが戦闘している各拠点へとばらまかれていった。