魔力伝播装置
学術都市エイブモズに降り立った俺たちは、町の外縁に巨大な魔晶石を置いてピカトリスたちと合流した。
「ゼロ君、すごいわねこの魔晶石。大きさといい硬さといい……うっとりしちゃう」
ピカトリスは俺の身長よりもかなり大きい魔晶石を惚れ惚れと見ている。
「石化した時にドラゴンの形はかなり崩れてしまったがな、どうやら魔力を溜め込んだ老いたドラゴンが死ぬと、その魔力量の分だけ器として残されるみたいだな」
「それ、すっごく興味をそそられる話ね! 今度研究してみたいけど老ドラゴンなんてとても強いんでしょう? よく思念体の状態で倒せたわね」
「まあそれはなんとか、な。それで、各地の様子はどうだ?」
「ゼロ君たちの魔晶石待ちだったから、だいたいはできているわ」
ピカトリスは胸を反らして偉そうな顔をする。上半身裸の上に薄いコートを羽織っている格好だから、端から見たら変な奴に見えるが本人は気にしないどころかそれが気に入っている様子だからな。
まあ、女言葉を使っていても身体は男だから、裸を見た所でなにがあるというわけでもないのだが。
「ユキネたちの準備はできているって事だな」
「そうよ」
俺たちが来た事は町にも伝わっている。どうせ見えていたのだろう。これだけの大きさだ、連絡する手間も省けるというものだ。
「ゼロくん、ルシルちゃん、戻ってきたのね!」
町の方からユキネが駆けてきた。他にも数名の技術者を引き連れて。
「この人たちは?」
「連絡役。各拠点にはもう先方の魔術師を配備してもらって、思念伝達でつなげているわ」
「用意周到だな」
「もちろんよ! ルシルちゃんに渡した銀枝の杖、あれで精霊界と連絡を取ってもらって魔力を移すのがこの魔晶石なのね」
ユキネも驚きの表情で巨大な魔晶石を見上げる。
「それで、魔力をどう各地に伝えるんだ?」
「それはね、みんなが持ってきた魔力伝播装置を使うの」
「魔力伝播装置? 技術者たちが持っているちょっと大きな水晶玉みたいなやつか?」
ユキネは自信ありげにうなずく。
「一旦この大きな、といってもゼロくんたちが持ってきたやつに比べれば小さいけど、魔晶石に魔力を小分けにするのよ。そして持っている彼らの思念伝達を媒介にして、つながっている先の人たちの魔晶石と共鳴させ、魔力を伝えるの」
「そんな事ができるのか。遠く離れた場所にも魔力を送るなんて」
俺が感心すると、ユキネもピカトリスも得意満面の顔で俺を見た。
うずうずしているピカトリスが会話に混ざってきて早口で説明をし始める。
「ゼロ君これはね、魔晶石の共鳴振動する周期を計算して、思念伝達の拡散波動力場と相互の通信要件を定量的に分析してそれから……」
「判った判った」
俺はピカトリスの説明を途中でさえぎった。こんな話聞いていたらきりがない。
「それで俺とルシルはどうしたらいい?」
「ルシルちゃんは精霊界に連絡を」
「うん」
ユキネの指示でルシルは杖に意識を集中し始める。
「ユキネさん! 先方が……」
「同じく三番隊も、遠隔地側で敵襲の知らせがありました!」
一瞬で俺たちの周りに緊張が走った。
「天界の奴ら、まとめて多方面に展開してきたか」
「ゼロくん、冥界への扉をお願い!」
「ああ、ルシルが精霊界から魔力を受け取る。俺はこの地を茫漠の勾玉へつなげてその道筋を思念伝達でみんなに伝えればいいんだな!?」
「そうよ! お願いね!」
俺はユキネの言葉にうなずいて応える。
「勾玉の側にはシルヴィアたちがいる。受け入れは大丈夫だ……」
俺も意識を集中させ、勾玉を目指して道を造り始めた。