運び方を考えて
ちょっと心臓に悪いが、といっても思念体だから心臓そのものはないのだが、老いたレッドドラゴンの呪いをかけられたかもしれない俺は、魔晶石となったレッドドラゴンを抱えて学術都市エイブモズへ向かう。
「ゼロ、重くない?」
「重さという概念を考えなければ、どうという事はない。持てると思えば持てるのだ」
「また~、無理しているんじゃないの?」
「無理はしていない。けど、実際の物体を運ぶというのは、なかなか想像力……精神力かな、使うものだな」
「苦しくなったら言ってね。私も手伝うから」
実際には重いのだろう。だが考える力がそれを上回れば、持ち運びはできる。
時間を圧縮して物質を運ぶから、余計な邪魔が入らないように俺たちは空を飛んで運ぶようにした。
「でもさゼロ、これだけ大きい物体を運ぶと、結構空気って重たくなるね」
「そうだなあ……運んでいる内はいいけど、この巨大な魔晶石が通過した後、空気が歪んでいるのが判るよ」
「え、どれどれ?」
「後ろを見てみるとさ、海の上を船が通ったみたいに空気が波打っているだろう?」
「あー、ほんとだ」
「ちょっと時間圧縮を解いてみようか」
「うん」
俺たちは空中で止まりながら、時の流れを普段の速度に戻す。
パァン!!
その瞬間、巨大な破裂音が空に響き渡り、あたかもそれは雷鳴のようにも聞こえた。
俺たちが通った跡に触れた鳥が何羽もその空気の波に弾かれて落ちていく。
「すごい音! それに衝撃波みたいなのが来たよ!」
「そうだな。俺が前に時間圧縮をしながら物を動かしたら、小さいけど同じように衝撃波が生まれてね」
「上空、結構高いところでやったけど……これ、地面の近くでやったら……」
「建物とか簡単に破壊されてしまうかもな」
「だよねぇ……」
思念体で物体を動かす時、前に冥界で同じようになった事があったからな。そこからも学習できるのだ。
「だからエイブモズの町に行った時、そのまま高速で町まで行ってしまうと」
「町、壊れちゃうね」
「そういう事。だから町の近くまで行ったら、時の流れを戻しながら地上を歩いて持って行こう」
「そだね……」
犠牲になってしまう鳥たちには悪いが、ここは町の近くに行くまで、空を飛んでいこうと思う。
「まさに飛ぶ鳥を落とす勢いってやつね」
「ルシル、なんだそれ?」
「なんか勢いがあるっていう意味? よく解んないけど、バイラマの知識からそんな言葉があったなあって」
「そうなのか」
ルシルの今の身体は未来にあるが、その身体は元々この世界を構築した神の一人、バイラマの物だったからな。記憶という事ではないが、いろいろな知識や情報がその中にはあったらしい。
「それが戦いや生活の知恵に結びついたらいいんだけどな……」
「ん? なんか言った?」
俺の独り言にルシルが反応する。
「いや、そういう知識が役に立つといいなって」
「そうだねえ、たま~にポロッと出てくるんだよね、バイラマの知識。意図的に引き出せたらいいんだけど、なんていうかなあ、普段は忘れちゃう? そんな感じなのよね」
「へぇ。夢みたいなものなのかな?」
「夢……うーん、それに近いかもね。断片的な記憶というか、なんというか……」
ルシルは少し考えてみたようだが、たいして気にしていないようだった。
「ま、なにかの時に使えたらいいね」
「ああ、そうできたら頼むな」
「あはは、頼まれてもできるかどうか判らないけどね~」
「軽いなぁ~」
「あはは~」
あっけらかんとしているルシル。まあ、バイラマの記憶や経験がルシルと重なっていなければいいが。
俺はほんの少しだけ心に刺さった棘を、なるべく気にしないようにした。
「さあ、エイブモズの町が見えてきたぞ」
「うん、降りよう!」
俺たちは巨大な魔晶石を持ちながら、ゆっくりと地上に降りていった。