ずっと考えている事が大変なんだ
ルシルは懐から魔晶石を取り出す。六角柱のような形の透明感がある宝石だ。
「えっ、ルシルちゃんそれってどこから!?」
ピカトリスが目を見開いて魔晶石を凝視していた。
「どこからって、内ポケットからだけど……」
「そうじゃなくて、えっ!? えっ!?」
ルシルとピカトリスがなかなか噛み合わないから俺が助け船を出す。
「ルシルは想像力を具現化させて物質として整形したのだろう?」
「あ、う、うん。考えて作ってみたの」
俺はルシルから魔晶石を受け取ってピカトリスに渡す。
「これに魔力を入れてみてくれ。俺とルシルは思念体だから魔力そのものを扱う事ができないんだ」
「い、いいけど……」
ピカトリスが魔晶石に魔力を注入する。宝石は徐々に透明度を失い、その奥に暗い光を宿し始めた。
「これでいいのかしら……」
「ああ」
「だったら魔晶石の問題は解決ってこと?」
この場の空気が明るいものになる。
だが俺は慎重に言葉を紡ぐ。
「俺とルシルは思念体でこの時代に現れている。だから想像力でおおよその事はできるんだが……ルシル」
「なあに?」
「魔晶石に向けている意識を止めてみてくれ。生成を継続している想像をやめるんだ」
「あ、うん……」
ルシルが少し目を閉じると、ピカトリスの持っていた魔晶石が消失して魔力の塊が煙のように消えていった。
「えっ、これってどういう事!?」
手にしていた宝石が消えてピカトリスがまた驚く。
「俺たちが意識できなくなった時点で作りだした物は消えてしまうという事だ」
「あ……」
ルシルも理解できたようだ。自分で作った物がどうなったかを。
「そうなんだ。俺たちが固定化できるのはあくまで意識できている範囲。それを超えて想像できない物は消えてしまう」
「ここで一時的に魔力の受け渡しには使えるけど、数が増えたり遠くまで持っていったりすると、流石に私たちの想像力からは」
「いつ消えてしまってもおかしくないくらい、不安定な物になってしまう。いやまあそれは俺たちがずっと固定化できるよう全ての魔晶石を管理して想像していればできなくもないだろうが……」
それは現実的ではない。少しでも気がゆるめば、意識が削がれれば、遠くの国に送った魔力が消えてしまう事にもなる。
「だからちょっと、ヴォルカン火山に行ってくる。他でも使える魔晶石があれば用意しておいて欲しい」
「わ、判ったわ。あたしたちもできるだけかき集めておくから」
ピカトリスを通じていろいろな所へ連絡が行くだろう。
冥界への避難方法としては、俺たちが集めた魔晶石に精霊界からもらう魔力を注入し、それを遠くの国や集落に渡す。それと共に中継点を思念伝達で結び、冥界との扉を遠隔地にも同時に展開する。その門をくぐって地上界から冥界に移動するというものだ。
「それにはかなりの量の石を用意しなくちゃな」
「うん」
ルシルはいい案だと思ったんだろうが、少し可哀想な事をしたかな。
「なあルシル」
「ん?」
「お前が作ってくれた魔晶石な、あれの要領で大きいのを作ろうと思うんだ」
「大きいの?」
「ああ。精霊界から魔力供給を受けるにしても、その受け皿になる物が必要になる。俺たちが見つけてくるとして、そこまで一時的に保管できる程の石は用意できないと思うんだよ」
「うーん、そうかも」
「一気に大量の魔力を小さい石に入れたらどうなる?」
「こぼれちゃうか、壊れちゃう……かな?」
「多分な」
俺はルシルの肩に手を回す。
「だから大きいのを俺たちで作って、そこに魔力を溜める。そこから切り出した分を本物の魔晶石に入れ直して、各地に持っていってもらえばいい」
「そっか、そうだよね!」
ルシルは元気になって俺の腕に抱きついてきた。
これでルシルの案も使って、精霊界の魔力を連携する方法が決まったな。