世界を超えた魔力供給
精霊界との通信はルシルの持つ銀枝の杖を使う。いくつかある宝玉の一つが精霊界とつながる力を持っている。冥界とつながるには冥界側に茫漠の勾玉が必要になるが、精霊界はこの杖が元々あった場所だけあって、これだけで連絡が取れるという。
「ゼロちゃん、ルシルちゃん!」
「ロイヤちゃん! 元気だった~!?」
「うん、ロイヤ元気なん!」
俺たちの前にロイヤの姿がうすぼんやりとだが映し出される。犬耳をピコピコさせて大きな目をくりくりっと開いていた。
「ほ、本当にバウホルツ族……この杖、ユキネ君が渡したって言っていたけど……」
ピカトリスは陽炎のように映し出されるロイヤの姿に驚きを隠せない。
「ねえゼロ君、あの子コボルトじゃないのよね? バウホルツ族なのよね?」
「ああ。種族は近いらしいがな」
「はぁ……書物や伝承では知っていたけど、こうして本物を見ると……」
「別に驚く事もないだろう。俺たちと同じ、世界の仲間だ」
「いえ!」
ピカトリスは真面目な顔で否定する。
「かわいい……」
顔を赤らめるピカトリス。女言葉で話してはいるが、身体は男だ。
アホは放っておいて俺はロイヤに事情を話す。
「ロイヤ、早速で悪いがたくさんの魔力が欲しいんだ」
「魔力? なににつかうのなん、ゼロちゃん」
ロイヤの反応は相変わらずだ。明るいというか脳天気というか。こちらも思わず笑顔になってしまうような元気さだ。
「地上界にいる人たちを避難させたいんだが、その避難先が冥界でな。それも身体ごと持って行きたいんだよ」
「え~、それは大変なん!?」
「そうなんだよ大変なんだ。それで精霊界から魔力を借りられないかって思ってな」
「うーん、どうだろう……。ちょっと長老に聞いてみるなん」
ロイヤの姿が煙のように消え、少し時間が経ってからまた現れた。
「その杖を使えばできるかもしれないなん」
「え、そうなのか!?」
「でも……」
「でも?」
「その杖の宝玉だけじゃ、魔力は溜めておけないなん」
「あー……」
確かに言われてみればもっともだ。大量の魔力を受け取ったとしてもこちら側で直接それを連携して各地へ供給する事はできない。
そうすると、こちら側でも魔力を移動させる手段なり道具なりを用意しなくてならない。
「なあピカトリス、魔晶石はどれくらい集められそうか?」
だらしない顔をしてロイヤを見ているピカトリスに俺が飛び膝蹴りをかます。
「ちょっ、なにするのよぉ!」
「魔晶石だよ。どうしても魔力を運ばなくてはならないが、用意するのにどれくらい必要になって、時間がどれくらいかかるかを知りたい」
「そうねえ……今近隣諸国の物を集めたとしても、今回の計画にはまだ百分の一も足りないでしょうね」
「そんなに不足しているのか!?」
「不足って言うより、元々集めて使っているのって魔晶石に魔力を注入できる人くらいでしょ?」
「魔力を注入できる人……」
どうも俺やルシルはピンとこない。
「ゼロ君たちは当然のようにやっているけどね、普通の魔力量の人じゃあ魔晶石に注入なんてできないのよ」
「え、そうなのか!?」
みんな普通にできるものかと思っていた。これは考えを改めなくてはならないな。
「あとはあたしやユキネ君とか、一部の研究者や魔法使いができる程度ね」
「そうかあ。もっと大量に作って国民に配布するくらいできたらいいのになあ」
「そんな膨大な魔力、誰が入れるって言うのよ!」
ピカトリスが言うように、限られた人だけの力であれば供給は間に合わないだろう。
これは生活環境の改善として考えるべき事かもしれないが、今はまず生き残る事が大事になる。
泥人形を使うための魔晶石も、学術都市エイブモズの生徒たちがいてくれたからある程度は造る事ができたっけな。
「よし、それでは魔晶石を手に入れる事と、ここに魔力注入できる人を集める事にしよう」
「ゼロ、人を集めるのはまあできると思うけど、移動する事を考えるとエイブモズに集まってもらった方がいいんじゃないかな?」
「そうだな。ピカトリス、ルシルの言うようにエイブモズに魔力注入ができる人たちを集めてもらえるだろうか。西の大陸からとかなら凱王たちに頼むといい」
「わ、判ったわ。で、魔晶石は?」
「うーん……」
実際に物がないとなると受け入れが難しい。近くで手に入る場所なり方法なりを考えるとすれば……。
「なあ、ヴォルカン火山に行ってみたらどうかな、前もそこで見つけたしさ」
俺は以前も魔晶石を探しに行った山を提案する。
ただ、問題は精霊界から譲り受けられる魔力が膨大になる事だ。
その魔力を魔晶石で受け止める方法が思いつかない……。
「あ、でもゼロ」
ルシルがなにかひらめいたようだ。目をキラキラさせて俺を見ていた。