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姉妹の語らい

 瘴気の谷から少し離れた荒野にレイラは立っていた。


「久し振りだな、姉上と義兄あに上。いやここは陛下と言っておいた方がいいかね?」

「好きにすればいいさ。それで、お前はどうするんだレイラ」


 レイラにも情報は伝わっている。ルシルから思念伝達テレパスで事前に話をしてもらっていたからな。その時はレイラもバーガルたちと残ると言っていたようだが。


「我の答えは、これだっ!」


 レイラはルシルに向かって走り出す。


「石のストーンストーム!」


 レイラの手から無数の石が飛び出し、渦を巻いて俺たちを襲う。Sランク(シングル)の威力を持つ高度な岩石系スキルだ。


「ルシル!」

「大丈夫。少し集中すれば……」


 俺とルシルは自分たちの姿を薄く、透明にするよう意識する。

 そうする事で飛んでくる大量の石が俺たちの身体をすり抜けていく。


「くそっ! であれば……魔力投鞭マジックウィップ


 レイラは魔力で作りだした鞭を振るう。


「きゃぁっ!」


 ルシルの腕に鞭が絡みつく。


「手応えあった!」


 締め上げながらレイラが勝ち誇ったように笑った。


「姉上の魔王としての力、我が貰い受けよう! さすればバーガルなどに後れは取らぬわ!」

「や、やめてレイラ……。こんな事をしても魔王の力はもう……」

「なにをぬかすかっ! 我に力を奪われるのがそんなに恐ろしいか!」

「違う、違うのレイラ……」


 ルシルは必死の抵抗をするがレイラは構わず鞭を引っ張る。


「違うものか! 姉上の力をもってすれば、あんな生っちろい連中に尻尾を振るバーガルなど……いや、あの天界の連中にすら対抗できるものをっ!」


 レイラの必死さはそこにあったのか。


「レイラ、ごめんなさい」


 ルシルはもはや抵抗はせずに引き寄せられるまま身を任せていた。


「姉上……」


 レイラが鞭を引っ張る以上に、ルシルはレイラに近付き、その身体を抱きしめる。


「ごめんなさいねレイラ。今の私にはあなたに力を授ける事ができないの」

「くっ……やはり思念体か……」

「解っていたのね。そう、私たちの身体は本来今よりも先の未来にあるの。だからこの身体も私の創造が生み出した思念体。過去に影響を及ぼす事ができる唯一の方法なの」

「意識は、時間をも超える……。ははっ、面白い理論だな」


 いつの間にかレイラの鞭は消え、レイラもルシルを抱きしめていた。


「私はねレイラ、もう魔王としての力は必要ないのかもしれない」


 ルシルは俺の方を見て意味ありげに笑う。

 レイラもその様子を見て、俺とルシルの顔を交互に見ていた。


「まさか姉上……」

「ううん、まだだけど、でもいつかは」

「そうか、まだか。だが可能性はあるのだな?」

「こ、これから頑張るから!」


 なんだか二人で納得しているような話だが、俺にはなんの事だかいまいち理解ができない。

 ただ、二人のじゃれ合いは終わったようで、ほっと胸をなで下ろした。


「レイラ、お前の肉体ごと冥界に送って避難する事はできる。今一度聞くが、共に行かないか?」


 一度は聞いた答えだが、別れ際にもう一度、今度は本人の口から直接確認したい思いがある。

 少しだけ考えたレイラは、晴れ晴れとした表情で答えた。


「我は行かぬよ。冥界には興味があったがな、折角姉上がこの時代から去ってくれるというのに、この機を逃す事もあるまい?」


 相変わらず偉そうな態度だが、それも自分を守るためなのだろう。必死になって大きく見せようとしているのが解る。


「そうか。それであれば済まないが、この時代の連中を頼む。残る奴も少なからずいるだろうからな」

「ああ。次会う時は我の方がもっと年上になるだろうな義兄あに上」

「そうだな……って、おい、お前もう二六〇歳を超えているんだったよな? 元から俺よりもだいぶ年上じゃないか!」

「おいおい義兄あに上、女性の歳を口にするのは野暮ってもんだろ」


 レイラはルシルが魔王の頃からずっと、器の交換も生まれ変わりもしていないんだ。だから同じ身体で生き続けているからそれくらいの年齢になる。


「まったく、魔族とかエルフとかの年齢は本当によく判らん……」

「あははっ、神秘的だろう?」


 レイラは屈託なく俺の背中を叩いて笑う。今は意識を集中しているから触れる事ができる。

 そんな俺たちをルシルが微妙に困った顔で見ていた事は内緒にしておくか。

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